溺愛の業火
3落とす
「松沢。何故、お前が毎回ここに居るのかな?」
「え?むしろ俺は、何で任を解かれた生徒会長様が居るのか不思議ですけど?」
ピリピリした空気の中、私はクラス委員の雑務を黙々と進める。
清水くんは推薦を受け、生徒会長になった。
クラス委員は私と、何故か立候補した松沢くんになったのだけど。
「松沢を、俺は信用していない。」
「ぶはっ!こいつ、俺以外の男なんて殺しかねない表情してやがる!」
松沢くんは、清水くんの様子に爆笑しているけど、我関せず作業を続けた。
「ははっ。笑い死ぬ!俺はお前が暴走して、篠崎にもっと嫌われるのが可哀相だから止めてやってんだよ?」
『嫌われる』
その単語に反応したのか、清水くんは口を閉ざす。
私の方を確認したのかな。
視線を感じたけど、気付かない振り。
「篠崎は清水の事、嫌いなの?」
緊張感の増す空気に身が固くなる。
松沢くんは結局、清水くんの友達で、彼の味方なんだよね。
それでも私が言いそびれていた言葉を、告げやすい状況にしてくれたのは確か。
「ごめんなさい、嫌いは言い過ぎたと思う。だけど、それ以上は訊かないで。」
口早に言い切って、また私は逃げるような態度をしてしまう。
清水くんの事を好きなのは知られたくない。
安易に付き合えるとは思えないから。彼の好意に幸せと不安を味わう。
断っても彼が諦めてくれないことに心は満ちて、自分の恋心を伝えることも出来ないのは卑怯だと自己嫌悪して。
彼の真っ直ぐな気持ちが炎のように私を責めているようだ。
そして恋い焦がれる。まるで、この想いが身を滅ぼすような。
教室のドアが開いて、息を切らした女生徒が叫ぶ。
「清水くん、ここに居たの?早く、急いで!今日は生徒会で、重要な書類の引継ぎでしょ。放送したんだけど、気付かなかった?」
蒼白の清水くんに、私は言葉を失った。
彼は私たちに何も告げず、席を立って走っていく。
残った私と松沢くん。少しの沈黙の後、私は作業を再開する。