溺愛の業火
「篠崎、本当の気持ちは言えないのか?」
松沢くんの声に一瞬だけ手を止め、震えている自分に気付く。
誤魔化すように動かそうとするけど、上手くいかない。
「松沢くんは、どうして複数の女の子たちと付き合うの?きっと本命はいるよね。…多分、その気持ちに近いのかも。」
自分の事を曖昧にして、出してしまった言葉を後悔する。
目を落として何も見ようとせず、ずっと感じていた疑問で誤魔化そうとした。
卑怯だ。
「ごめんなさい。」
顔を上げ、視線を松沢くんに向けた。
すると松沢くんは、満足そうな笑みを浮かべて立ち上がる。
「あいつが、どうして篠崎を好きになったのか分かった気がするよ。そうだなぁ。許してあげる代わりに、俺のお願いを聞いてもらおうかな。」
私は清水くんの荷物も持って、松沢くんの指定した場所に向かった。
校舎の裏口、鍵が開いているから彼はいるはず。
ドアをそっと開けて覗くと、そこには落ち込んで沈んだ彼の背中が見えた。
「清水くん、大丈夫?」
話しかけながら外に出て、ゆっくり近づくけれど返事は無い。
彼の頭に、そっと手を乗せると少しの反応が返ってきた。
優しく撫で続けるけれど、無言で微動だにしない。
不安になって手を止め、乗せたまま反応をうかがう。
「続けて。」
小さな声でのオネダリ。
あぁ、こんな些細な事が愛しいなんて。普段の彼とは違う一面。
「篠崎は俺を、もっと嫌いになったかな。」
「…少し、好きになったよ。」
無責任な言葉を出してしまったかもしれない。
だけど、今は本当の気持ちを告げても良い気がした。
松沢くんが教えてくれた秘密の場所。
清水くんは落ち込んだ時、ここに来て気持ちを切り替えるのだと聞いた。
失敗など、あまり見せない彼も私と同じように傷ついて、何度も自分を奮い立たせてきたのだと。
自分だけが必死で、失敗にくじけているわけじゃないのだと、あなたが教えてくれる。
もっと弱さも見せて欲しい。
愛しさに落ちていく。