溺愛の業火

4流されて


清水くんは腕を伸ばして、頭に乗せた私の手を取った。

「座って。」

自分の隣に座るようにと、手を引いて導く。
彼は下から上目で、少し泣きそうな苦笑を見せた。

胸が苦しくなった私は無言で、導かれるまま横に座る。
清水くんは私の肩に、甘えるように頭を寄り掛からせて、無意識なのか何度もすり寄せる。

微妙な息苦しさ。自然と体は動いていく。
私は彼の頭に、自分の顔を近づけて触れた。

清水くんは驚いたのか頭を離して、私の様子を確認するように覗き込んでくる。
少しの沈黙。

私は赤くなっている彼の目に釘づけになっていた。
その視線に、彼は何を思ったのか目を伏せ気味にして視線を逸らす。

「惨めだ。」

その言葉で自分の今の状況を把握した。
手は導かれた時に繋いだままで、赤くなった目元に触れようとするまで気づかなかった自分。

無意識に彼に触れたいと願うほどの、奥深くに沈めた想い。

『惨め』

私は視線を落として、苦しい胸元の服を握り締める。
そんな自分に影が落ち、額に風が当たって目を上げた。

おでこに柔らかな接触。
見つめ続ける私に、清水くんは視線を合わせて辛そうな表情をした。

沈んだ感情に、別の想いが込み上げてくる。
涙が出そう。苦しいのに甘い。

無言で見つめる彼の目が閉じ気味になり、顔の距離がゆっくりと縮まっていく。
私は目を閉じた。

唇に受けたのは軽いキス。

拒絶できるわけがない。
目を開けると、彼と視線が合ったまま唇が重なった。

流されてしまう。
このまま、何も考えず……


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