不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした
 ヴィンセント様は戸惑ったように首を振り、わたしに背を向けたままつぶやく。

「……分かった。折を見て、少し話そう。それくらいなら……」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 自分でも驚くくらい、はしゃいだ声が出てしまった。ヴィンセント様は静かに、やはり少し困惑したような声でつぶやく。

「……ああ、本当だ。だから、いい加減手を離してくれ」

「あっ、ごめんなさい」

 あわてて手を離すと、ヴィンセント様はゆっくりと息を吐いた。ずっと緊張していたような、そんなため息だった。

 ネージュさんが小さく笑いながら、道を開ける。ヴィンセント様はこちらを見ることなく、そのまま立ち去っていった。

 ヴィンセント様の後姿を、わたしとネージュさんは並んで見送っていた。

『さっきの演説は、中々面白かったぞ』

 やがて、ネージュさんがそう言った。

「演説なんてすごいものじゃないですよ。思ったことを、そのまま言っただけですから。……子供っぽい妻だって、あきれられてないといいなあ……」

 今さらながらに、あれでよかったのだろうか、もっと他に言いようがあったのではないかと、そんな考えが浮かんでしまったのだ。

『いや、おまえはよくやったさ。あの時のヴィンセントの顔、見せてやりたかったぞ。おまえの言葉は、間違いなくあいつの心を動かした』

「……そう、なんですか?」

『ああ、そうだ。これからもその調子で、思ったことをばんばん言っていけばいいんじゃないか? ああそうだ、話し合いの場にはおれも同行させろ。こんな面白そうなものを見逃す手はないからな』

「それは、ヴィンセント様との話をこの森でしろ、ということですか? どうやって説得しよう……」

『ああ、説得はしなくてもいいぞ。今までと同じようにここに通っていれば、自然とあいつもやってくるからな』

 そう言って、ネージュさんは含み笑いをする。こくりとうなずきながら、わたしは心躍るものを感じていた。

 一歩だけ、ヴィンセント様に近づくことができた。彼に触れることができた。これから、もっと彼を知ることができるかもしれない。

 そんな浮かれた思いが、心の中でぴょんぴょんと跳ね回っていた。
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