不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした
 そうしてわたしたちは、屋敷の中を歩いていた。ネージュさんが屋敷に来ると聞いた時、廊下がふわふわの毛で埋まってしまうとあせったけれど、意外にもそうはならなかった。

「ああ……可愛い……ふわふわ……」

「可愛いと言われるのは心外だが、おれの毛並みが素晴らしくふわふわなのは当然だ。今のうちに、堪能しておけよ」

 ネージュさんは、小さく縮んでしまっていたのだ。わたしの両腕で抱えられるくらいの大きさで、ますます猫っぽい。

 しょんぼりしていたわたしに、ネージュさんは提案したのだ。おれと一緒に、屋敷に行くぞ、と。

『おれが屋敷の中を調べて、話の糸口になりそうなものを探してやる』

 わたしに抱っこされたまま、ネージュさんはそう断言した。

「調べる……って、このまま屋敷を歩き回るんですか?」

『それだと効率が悪い。それにおれたちの目的がばれたら、きっとあいつはおれのことも警戒するだろう。そうなったら、余計に状況がややこしくなる』

 そう言うと、ネージュさんは廊下の壁に目を留めた。わたしの顔くらいの高さに、大きな鏡が掛けてある。

『だから、あいつに見つからないように調べてくる。ここで待っていろ』

 言うが早いか、ネージュさんは床に飛び降りて、そのまま鏡に向かってぴょんと跳んだ。驚いたことに、その真っ白な姿は鏡に吸い込まれるようにして消えてしまう。

「……幻獣って、あんなこともできるんだ……」

 一人取り残されて、ぽかんとしながらそんなことをつぶやく。

 ネージュさんが何を探しにいったのかは分からない。わたしにできるのは、言われた通りにここで待つことだけだろう。

 突っ立ったまま、ぼんやりと窓の外を眺める。そこにある中庭には、よく手入れされた花たちが咲き誇っている。

 うわあ、綺麗だな。あの花、初めて見た。名前はなんだろう。今度、ヴィンセント様に尋ねてみようかな。話のきっかけになるかもしれないし。

 あ、でも……ヴィンセント様のような立派な男性が、あんな小さな花のこと、気にするかな?

「話が弾みそうな題材を探すって、難しいなあ……」

『そうでもなさそうだぞ』

 ため息をついたその時、ネージュさんの声がした。気のせいか、やけに浮かれている。

「あ、ネージュさん、お帰りなさい」

 鏡から出てきたネージュさんが、こちらに向かって跳んできた。わたしのそばに着地して、にやりと笑っている。

『行くぞ、エリカ。今なら面白いものが見られるぞ。きっと話も弾むだろう』

「何があるんですか?」

『今は内緒だ。そのほうが面白いからな。さあ、こっちだ。足音を立てるな、声は限界までひそめろ』

「は、はい!」

 訳が分からないながらもネージュさんを抱っこして、指示に従いながら忍び足で進む。向かっていたのは、屋敷の一階の奥。

 使用人たちが家事をしているはずなのに、何だかとっても静か。首をかしげていたら、ネージュさんがそっと扉を指した。ふわふわの前足で。

『そこの扉だ。いいか、気づかれないように、そっと、そおっと開けろ』

 ここって、厨房だ。おいしそうな料理の匂いがする。まだ夕食の準備には早いと思うのだけれど……おやつかな。

 そんなことを考えながら、言われた通りに扉を開ける。音を立てないように、少しずつ。

 細く開けた扉の隙間から、そっと厨房をのぞいた。そうして、目を見開く。
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