不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした
「どうした雪狼、そわそわして」

『だから、鍋! 吹きこぼれるぞ!』

 ネージュさんの視線の先には、今にも吹きこぼれそうな鍋があった。ついさっきまでヴィンセント様がかき回していた、あの鍋だ。

「あ、あの、ヴィンセント様、お鍋が……」

 その言葉で、ようやくヴィンセント様は鍋の状態に気づいたらしい。あわてて鍋に駆け寄り、また作業を再開している。

 鍋をかき混ぜて、味を見て、さらにもう少し何かを足して。ヴィンセント様は、さっきと同じようにてきぱきと動いている。

「……ふう、危なかった。知らせてくれて助かった」

「……あの、それはいったい何のお料理でしょうか?」

 好奇心に負けてしまい、そろそろと鍋に近づく。ヴィンセント様は身をこわばらせてはいたけれど、逃げようとはしなかったし、追い払われもしなかった。

 さっきネージュさんにかけていたものとはまるで違う、ぼそぼそとした小さな声で、ヴィンセント様が答える。

「…………故郷の、煮込みだ」

 その鍋からは、おいしそうな匂いがふわんと漂っている。普段食べているものより濃厚で刺激的な香りに、お腹がくうと鳴ってしまった。わ、恥ずかしい。

「あ、えと、その」

『確かにうまそうだ。腹が鳴るのも当然だな』

 ネージュさんが尻尾を振りながら、部屋の真ん中にある大机に近づいた。普段は料理人が作業に使っている机だ。そうして、そこにある椅子にちょこんと腰かける。

『おいヴィンセント、おれにもそれを食べさせろ』

 ネージュさんの言葉はヴィンセント様には通じていない。どうしたものかと思っていたら、ヴィンセント様が苦笑した。

「どうした雪狼、これが気になるのか」

 その言葉に、ネージュさんがまたほえた。

「まあ……犬に良くない食材は入っていないから……少しならいいか」

『おれは犬ではないぞ』

 抗議しつつも、ネージュさんの尻尾はぱたぱたと揺れている。犬みたいに。

「…………君も、食べるか」

 それからヴィンセント様は、ためらいがちに問いかけてきた。そんな彼に、すぐにうなずく。力いっぱい。

 そうして、質素な木の机を囲んだささやかな食事が始まった。

 まだ夕食前だし、たくさん食べたら夕食が入らなくなってしまう。だから味見程度でいいかなと少なめについでもらった。けれどすぐに、そのことを後悔した。

 ヴィンセント様の煮込みは、ものすごくおいしかったのだ。あっという間に空っぽになってしまった器をじっと見つめながら、頭を下げる。

「ごちそうさまでした。とってもおいしかったです」

 本当は、もっと聞きたいことがあった。

 どうして料理を、それも内緒でしているのですか。どうしてこんなにおいしいものを作れるのですか。

 そんな疑問を飲み込んでいたら、隣の席のネージュさんがこちらを向いた。
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