不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした
『おい、もっと食わせろとあいつに言え。さっきから必死に目くばせしているのに、ちっとも伝わらん。こうなったら、おまえがおれの言葉をそのまま伝えろ』

「え、でも、それは……」

 そんなことをして、信じてはもらえるだろうか。冗談を言っているように思われるかも。

『大丈夫だ、さっさと言え。それで、おかわりの内容だが……』

 ネージュさんはやけにせかしてくる。仕方なく、どきどきしながら口を開いた。

「あ、あの! ネージュさん……こちらの雪狼さんが、おかわりが欲しいそうです!」

 ヴィンセント様が、ちょっとだけ目を見張る。そちらを見ないようにしながら、一気に言い切った。

「肉多め、芋はそこそこ、匂いのする葉っぱは少なめ、だそうです。その……『おまえが料理をするとは聞いていたが、ここまでうまいものを作るとは思わなかった』と、そう伝えろって……」

「……まるで、雪狼と話せているような口ぶりだな」

 大いに困惑した声が返ってくる。どうしよう、やっぱり信じてもらえてない。と、ネージュさんがそっと耳打ちしてきた。

「えっ、それをそのまま言っちゃうんですか!?」

『構わん。それであいつも信じるだろう』

 自信たっぷりに笑うネージュさんからも目をそらして、半ばやけになりながら、ネージュさんの言葉を復唱する。

「えっと、『確かに、エリカはおれの言葉を理解しているぞ。疑うようなら、おまえがおれの前でこぼした愚痴を、全部こいつにばらしてやろうか?』……って言ってます」

 ヴィンセント様は硬直したまま、何も答えない。ネージュさんは人の悪そうな笑みを浮かべて、さらに言った。

「あの、その……『おまえが一度だけ舞踏会に引きずり出された時の泣き言も全部覚えているが、教えてやってもいいか?』だそうです」

「そ、それは困る。分かった、信じることにする。それでいいだろう、雪狼?」

 半信半疑といった顔で、大いにあせりながらヴィンセント様が大きくうなずいた。……愚痴とか泣き言とか、いったいどんな内容なんだろう。気になるけど、忘れておこう。

『あと、おれの名前はネージュだ。まあ雪狼という呼び名も気に入っているがな』

 その言葉をそっくり伝えると、ヴィンセント様は戸惑いながらわたしとネージュさんを交互に見た。

「……本当に、言葉が通じているのか……いや、しかし、だが……」

『ああ。だからおまえの趣味が料理と裁縫だということだって、こいつに教えてやれるんだぞ、ヴィンセント』

 思いもかけない言葉に、目をまん丸にしてしまう。その様子に何かをかぎとったのだろう、ヴィンセント様が前のめりになった。

「……今、雪狼は何と……?」

「ええっと、その……」

 たぶん今のは、聞いてはいけない言葉だ。ここはなんとかしてごまかすべきだ。えっと、えっと、どう言ったらいいのかな。

「……お料理がこれだけおいしいのだから、お裁縫もきっと上手なのだろうな、って……あの、わたしはそう思って」

 そんなことを口走ってしまってから、間違えたと思ったけれどもう遅い。

「…………ばれた、か。おかしいとは思わないのか。大の男の俺が、料理だ手芸だと……」

「いいえ、素敵だと思います!」

 さっきの煮込みの味を思い出して、つい力が入ってしまう。ヴィンセント様は青灰色の目を丸くした。さっきまでの険しい表情が、ふっと和らいだ。

「そ、そうか」

 それきり二人して、黙り込む。ところでおかわりはまだか、と騒ぐネージュさんの声を聞き流して。

 今までは気まずかったヴィンセント様との沈黙が、初めて心地良いものだと思えていた。
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