不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした
 君を愛するつもりはない。妻など不要だ。そう言い切ったヴィンセント様は、それからも徹底してわたしを避け続けていた。

 あいさつをしても、無言で会釈してすぐに立ち去ってしまう。お喋りしませんかと声をかけても、忙しいからと追い払われてしまう。食事は一緒にとってくれるけれど、その間もずっと無言だ。

 本人が何も喋らないのなら、周りに聞いてみよう。そう思って、使用人たちとも話をしてみた。あなたたちから見たヴィンセント様はどんな方なの、と尋ねてみたのだ。

 けれど彼らの返事はこんなものだった。自分のことについては何も話すなと、そうヴィンセント様から命じられておりますので。結局、こちらも空振りだった。

 何日かそんな風に過ごして、ようやくわたしは思い知った。ヴィンセント様は、わたしのことを本気で拒んでいる。

 彼は、いつでも離縁するといった。わたし、実家に帰ったほうがいいのかもしれない。でもわたしは、そうしたくなかった。

 政略結婚とはいえ、こうして夫婦になったのも何かの縁だと思う。拒まれたからさようならだなんて、寂しすぎる。

 でもこれ以上無理に踏み込んでも、もっと嫌われるだけだと思う。進むこともできず、戻ることもできない。

「使用人のみんなは良くしてくれるし、居心地自体は悪くないのにな……」

 自室で一人そんなことをつぶやきながら、窓の外をぼんやりと眺める。そこには、屋敷の裏手に広がる森が見えていた。豊かな緑は、胸の中の寂しさを少しだけ癒してくれた。

「……ヴィンセント様……どうして、口もきいてくれないのかな……そんなにわたしのことが、嫌なのかな……」

 初めて会った時、彼は困ったような、苦しそうな顔をしていた。でも、わたしを忌み嫌っているような、そんな様子はなかった。少なくとも、わたしはそう思った。

 どうして彼は、あんな顔をしていのだろう。どうして彼は、わたしを避けるのだろう。その理由を知りたいのに、どうしようもない。

 泣きそうになって、あわてて首を横に振る。その時、森の奥のほうに何かおかしなものが見えた。

「今の……何だろう。真っ白くて大きな……」

 獣にしては白すぎるし、人間にしては大きすぎる。その何かが気になって、部屋を抜け出す。

 裏手の森には、賊や大きな獣はいない。散歩に向いた安全な場所なのだと、そう使用人のみんなから聞いていた。だから、あの何かを追いかけても大丈夫。きっと。

 足音を忍ばせながら屋敷を飛び出し、森の中へ足を踏み入れる。森の中の細い道を、転ばないよう気をつけながら急いだ。あの白い何かがいたのは、確かこっちだったと思う。どこかなあ。

 そんなことを考えながら大きな木を回り込んだ、その時。

『ほう、こんなところに若い娘とはな。珍しい』

 突然、そんな声が聞こえてきた。

 若いような年を取っているような、何ともつかみどころのない男性の声だ。とても愉快そうに、くつくつと笑っている。

「誰か、いるんですか?」

『おっと、気づかれたか』

 そんな言葉と共に、白い大きな影がぬっと目の前に現れた。
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