不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした
 幻獣がいただけでも驚きなのに、ヴィンセント様と会っているなんて。今日は次から次へと、驚くようなことばかりだ。

「……あの、ヴィンセント様とお知り合いだっていうのなら……あの人のこと、教えてもらえませんか?」

 そう頼み込んだら、ネージュさんはむむうとうなり、それからわたしを見下ろした。

『……そもそもおまえ、何者だ? あいつの屋敷に住んでいるとか言ったが、使用人か?』

「わ、わたしは」

 ごくりとつばを飲み込んで、緊張しながら答える。

「わたしは、ヴィンセント様の、……妻、です。ですから……夫のことを知りたいと、そう思うのは当然ですよね」

『ああなるほど、おまえがあの、押しつけられたとかいう嫁か。あいつがあんなに嘆いていたから、いったいどんな恐ろしい女が来たのかと気になっていたんだが……なんだ、可愛らしい女じゃないか。変わってるが』

 ネージュさんは楽しそうに笑いながら、そんなことを言っている。しかしわたしは、それどころではなかった。彼の胸毛をしっかりとつかんで、ぐいぐいと引っ張る。

「あの、お願いです、教えてください! ……ヴィンセント様は本当に、嘆いておられたんですか? その、どんなことを、言っていたのでしょう……」

 ヴィンセント様が、陰でわたしのことを嘆いていた。その言葉が、ぐさりと胸に刺さる。必死にすがりながらも、涙がじわりと浮かんできた。

 と、大いにあわてた声が降ってきた。

『あ、こらおい、泣くな! ……嘆くというか、愚痴っていたというか……ともかく、おれの口から言えるのはそこまでだ。気になるなら、本人に聞いてみろ』

「だって、ヴィンセント様はずっとわたしのことを避けていて、話すどころかあいさつだってできなくて、わたし、ヴィンセント様のこと、もっと知りたくて、なのに」

『だから泣くな、頼むから!』

 気がついたら、涙の粒が頬を転がり落ちていた。嫁いできてからずっとこらえていたものが、ぽろぽろとあふれ出していく。

 最高にふわふわの白い毛をにぎりしめたまま、声を殺して泣き続ける。ネージュさんは困っていたようだけれど、何も言わずにそこにいてくれた。
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