不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした
 そうして、わたしが泣き止んで。

『まったく、嫁をここまで泣かせるとは……さすがに、見過ごせんな』

 ネージュさんが深々とため息をついた。とびきり大きなそのため息が、わたしの淡い金の髪をふわりとなびかせた。

『このままだとおまえ、泣きべそかいたまま実家に戻ってしまいそうだからな……おれとしても、せっかくの話し相手がすぐにいなくなるのは面白くない』

「……ネージュさん?」

『少しだけ、手伝ってやる。ただおれはあくまでもきっかけを作るだけだ。そこから先は自分でどうにかしろ。分かったな』

 いったい何をどうすればいいのかまったく分かっていなかったけれど、ひとまずこくりとうなずく。

『よし、ならばおまえに策を授けてやろう。よく聞けよ……』



「あの、これが本当に『わたしとヴィンセント様の関係を改善できるかもしれないとびきりの策』なんですか?」

 ネージュさんと出会ってから数日後、わたしは裏庭の奥の森でネージュさんと話していた。彼がわたしに、毎日ここに来るように言ったのだ。それも、昼食のすぐ後に。

『ああ。おまえは今まで、ろくにヴィンセントと顔を合わせることすらできなかったのだろう? ならばこれが、最善の策だ。……たぶん』

「たぶん、って、そこで弱気にならないでください……」

『ああもう、大丈夫だ。いちいち泣きそうな顔をするな。こうやって待っていれば、じきに好機がやってくる』

「信じてますからね……」

『ああ。おまえはいちいち涙ぐまずに、どんと構えておけ』

 そうやって、いつものようにあれこれとたわいのないことを話す。と、ネージュさんが口を閉ざして屋敷のほうを見た。

『……どうやら、好機が来たようだな。ほら、ここに隠れてじっとしていろ。おれがいいと言うまで、絶対に出るんじゃないぞ。動くのも喋るのもなしだ』

 そう言って、ネージュさんがぺたりと地面に伏せる。彼は鼻面をくいと横にしゃくって、脇腹を指し示した。

 やっぱり訳が分からなかったけれど、大急ぎでふかふかの毛の中にもぐりこむ。

 驚いたことに、彼のふわふわの白い毛はわたしをすっぽり包み込んで隠してしまうだけの長さがあった。しかもその中は、お日様の匂いがしてとても居心地がいい。こんな時じゃなかったら、ここでお昼寝したいくらい。

『よし、きっちり隠れたな。ぎりぎり間に合った』

 何に間に合ったのか、わたしはすぐに知ることになった。足音が近づいてきて、朗らかな声がしたのだ。

「……ああ、ここにいたか、雪狼」
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