不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした
 今、彼はどんな顔で笑っているのだろう。彼の笑顔が見たい。その笑顔をわたしにも向けて欲しいなあ。

「貴族は苦手だ。何を考えているか分からないからな。その点お前とは、言葉がなくとも通じ合える。俺は、良い友を得た。どうかずっと、俺のもとにいてくれ」

『そういう口説き文句はエリカに言ってやれ、こそばゆい。あと、勝手に友にするな』

 やっぱりずれている会話がおかしくて、うっかり小さく笑ってしまう。いけない、きちんと毛の中に隠れていなくては。あわてて、頭をぎゅっとネージュさんの脇腹に押しつけた。

 その拍子に、髪飾りがネージュさんのふわふわの毛に引っかかってしまった。一番お気に入りの、宝石飾りのついたリボンだ。

 ヴィンセント様にばれないように毛を外してしまおうと、髪飾りにそろそろと手を伸ばす。

 どうにかこうにか、引っかかっているところは外せた。けれどそのままリボンがほどけて、わたしの髪からも外れてしまったのだ。

 リボンをたなびかせながら、ころんころんと宝石飾りが転がっていく。ネージュさんの毛の外側、ヴィンセント様の立っているほうへ向かって。

 あれが見つかったら、わたしがここにいることがばれてしまうかもしれない。こんなところで盗み聞きしているのを知られたら、今度こそ嫌われてしまう。

 もちろんこれは、ネージュさんの指示でやったことではあるけれど、それを証明するのは多分無理だ。なぜかわたしはネージュさんと話せるんです、などと主張したら、頭がおかしくなったと思われるかも。

 どうか、髪飾りがヴィンセント様に気づかれませんように。そんなわたしの祈りも空しく、ヴィンセント様の笑い声が止まった。

「雪狼、どうしてお前がこれを持っている?」

 どうやら、ヴィンセント様は髪飾りを見つけてしまったらしい。急に緊迫感を漂わせて、彼はネージュさんに問いかける。

「これは彼女のものだろう? お前、彼女に出会ったのか……? まさかとは思うが、お前は彼女に危害を加えてはいないだろうな」

『人聞きの悪いことを言うな、堅物。おれは人畜無害な幻獣だぞ。人間を食ったりするものか』

 そう答えて、ネージュさんが少し考え込む。

『ま、これもきっかけと言えなくもないか。おいエリカ、ここからはおまえが頑張れ』

 いったい何を頑張れというのか。もう、さっきから分からないことばかり。

 どうしよう、と困っていたら、いきなり視界が開けた。目の前には、ぽかんとした顔で立っているヴィンセント様。

 どうやらネージュさんはいきなり立ち上がって、そのまま一歩横にどいてしまったらしい。地面に座ったわたしの姿は、ヴィンセント様から丸見えになっていた。

「……なぜ、君がここに」

 わたしは何も言えずに、ただヴィンセント様を見上げていた。
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