不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした
 草地に座り込んだわたしと、わたしを呆然と見つめているヴィンセント様。そしてそんなわたしたちを、ネージュさんがにやにやしながら眺めている。

 あわてて立ち上がってスカートについた草を払っているわたしに、ヴィンセント様がそろそろと髪飾りを差し出してきた。とても、ぎこちない動きで。

「あ、ありがとうございます」

 髪飾りを受け取る時に、ほんの少し手が触れた。すごく大きな、がっしりした手。彼に触れるのは、これが初めてだ。彼の上着の袖口に、ネージュさんの白い綿毛が何本かくっついていた。

 そういえばさっき、ヴィンセント様はネージュさんのことを撫でまわしていたような。ちょうど、犬か何かを可愛がる時のように。

 そんなことに親しみを感じてしまい、つい口元に笑みが浮かぶ。けれどそれがいけなかったのか、ヴィンセント様はすっと手を離し、機敏な動きで背を向ける。

「……さっき聞いたことは忘れろ」

 わたしがどうしてここにいるのか聞きもせずに、ヴィンセント様は立ち去っていく。ああ、やっと彼の新たな一面を見られたと思ったのに。やっぱり、話せなかった。

 返してもらった髪飾りをぎゅっとにぎりしめた時、ネージュさんがいきなり動いた。

 彼は助走もなしに、いきなりぽんと高く跳ねた。そうしてヴィンセント様の目の前にすとんと着地し、帰り道を体でふさいでしまったのだ。

『逃げるな、弱虫堅物』

「どうした、いきなり道をふさいで。……仕方ない、こちらから」

 ヴィンセント様は戸惑いつつも、道を外れて森の木々の間を無理やり通り抜けようとする。そんな彼の行く手に、またネージュさんが先回りする。右へ左へ、せわしなく。

『おい、エリカ。おまえも黙って見ていないで、今のうちに思ったことを言ってやれ』

 その言葉に、我に返る。そう言えばさっき、ネージュさんは『ここからはおまえが頑張れ』とか言っていた。

 わたしは、ヴィンセント様に避けられていることが悲しくて、ヴィンセント様とろくに話ができないことが悲しくて、そうしてネージュさんに泣きついたのだった。

 今ならば、ヴィンセント様に声をかけることができる。ネージュさんが退路を断ってくれている、今なら。

 髪飾りをにぎりしめたまま、ゆっくりとヴィンセント様のほうに近づいていく。緊張でひざが震える。でも、今逃げたらもう好機はやってこない。

「あ、あの、ヴィンセント様!」
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