灼熱の炎に蕩けるほどのくちづけを
1・ルビーレッドに揺れるブルー
早く終わればいい。
逞しい腕に抱かれながら、セシルはただ、この痛みしか与えられない行為が終わるのをひたすらに待ち続けていた。
夜の帳が降りた薄暗い室内。暖色の灯りに照らされた夫婦の寝室に響くのは、ベッドの軋む音と、獣のように獰猛な息遣いだけだ。体を揺さぶられることで生理的に漏れるセシルの声は、嬌声と言うよりは呻き声に近い。
欲望をぶつけられるだけの行為に、セシルの目尻が熱く滲んだ。
愛し愛され、生涯を共に歩むことを誓うのが結婚だと思っていた。
愛するひとと肌を重ねることは、あまく幸せな行為だと思っていた。
けれど、現実はセシルが思い描いていたものとはどれもが遠くかけ離れていた。
体の上にのしかかる男の律動が激しさを増す。終わりが近いのだと安堵した瞬間、痛いくらいに体を抱きしめられた。その熱く激しい抱擁に、愛されているのだと勘違いしたのは初夜だけだ。あれ以来、何度体を重ねようと、セシルはもう二度と夫であるこの男から愛を感じることはなかった。