もっと、キミと
「美華、またお兄ちゃんを怒らせたでしょ」
浮き足たったのも束の間、台所でトントンと野菜を切る母の声で地面に叩きつけられる思いだ。
「え……」
「お兄ちゃんは大変なの。こういう時こそ家族で支えないといけないの。分からない?」
お母さんはいつもこうだ。
私の意見なんて全然聞いてくれなくて、兄優先。
受験で大変な兄の為に、仕事を辞めたくらい兄への思い入れが強い。
「……そうだね、ごめん」
お母さんを奪われるのは、いつものこと。
ここで何か反論すれば、母に丸め込まれてしまう。
母は、仕事を辞めるまで何人もの部下を持つ立場だった。
感情的ではなく、理論的な怒り方をする。
十四年間生きてきて学んだことは、母には口答えせずぐっと堪えるのが一番賢いということだ。
「美華は聞き分けが良くて助かるわ。朝ごはん、早く食べちゃいなさい」
一ミリも納得はしていないが、母の満足そうな顔を見るとこれ以上は何も言えなくなってしまう。
リビングの扉に一番近いテーブルが私の席。
朝食について口早に言及されると、私は席についた。
「……うん。いただきます」
顔の前で両手を合わせ、食べ始めた。