もっと、キミと


「えっと、例えばどこを知りたい?」


学校に慣れすぎて案内してほしいと言われても、どこを案内すれば良いか分からなかった。


「うーん、プールかな」


「え。それって案内なの?」


プールの授業があるのは、六月から夏休みが始まるまで。


そんな短期間でしか行ったことのない場所の案内なんて、私にできるのだろうか。


少し、不安も混じった。


「この時期しか行けない場所だからね。それに、間宮先生が言ってたんだ。そろそろプール開きだから、掃除のためにプールも開放されてるんじゃないかって」


「う……それ、ほんとにバレたら怒られるやつだよ?」


「お忍びだからね。怒られないように細心の注意を払いながら。さ、行こう」


せっかく登った階段を先に降りる佐倉くん。


さっきまでは私の方を振り返ることなんてなかったけれど、今度は階段を降り切ると私に笑顔を向けた。


「早く早く。ほら、おいで」


無邪気に笑い、強引な彼に反発できず私はごくりと生唾を飲み込んで意を決した。


私が、階段を一段降りると私のことなんて置いて行ってしまうくらいの早足で一階へ向かった。


まるで、彼が案内をしているようだ。


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