もっと、キミと
優しい笑顔で、私を温かく包み込む力のある彼。
私の心は、かなり動揺していた。
甘い言葉に、翻弄されそうになっていた。
「美華っ!」
と、聞き覚えのある大きな声で名前を呼ばれなければ、彼に心を奪われていたかもしれない。
声の方を見ると、そこには鬼の形相をした母が立っていた。
プールのフェンス越しでも、こめかみに血管が浮かびかなり怒っているのは分かった。
多分、間宮先生と担任が揉めている最中に私達がこっそりと教室を抜け出したのがバレたのだろう。
教室から抜け出して真っ先に行くと疑われるのが自宅。
学校からいなくなり、そのまま自宅へ帰ったと思われて家に連絡がいったのだろう。
そして、世間体を気にする母が学校へ駆けつけたのだと思う。
「アンタっ……何してるのよ!?」
理論的に怒る母が、これほど声を上げて怒るところを見た事がない。
危機迫る状況に、心臓はバクバクし続けてていた。
「ご、ごめ……ごめんなさいっ。私、私ーーっ」
やはり私は、みんなに迷惑をかけてしまうとんでもなく厄介で、存在を消すべき者だったのだ。
あの時、佐倉くんの声を振り解いてでも一歩踏み出すべきだったんだ。