もっと、キミと


「……男と行くの?」


「え……?」


いつもと違う、低い声音で何となく表情もむすっとしてる気がする。


まさか、と首を横に振った。


「ち、違うよ……! 多分、行かないし……。その、行きたいな、とは思ってたんだけど」


樹くんと。


とは、言えなかった。


そんな勇気、私にない。


「ふぅん。それじゃあ、美華ちゃんはその日。空いてるわけだ?」


「え。ま、まぁ……」


夏休みは、ただ長いだけで特別楽しいという訳ではない。


学校で授業を受けるよりマシだと思っていたけど、もし樹くんとこのまま同じ教室で過ごせていたら、学校へ行っていた方が楽しかったかも。


なんて、思っていた。


「それなら、またキミの時間をちょうだい」


「へ……?」


「僕と夏祭りへ行こう」


まさかのお誘いに目を丸くして瞬きを繰り返した。


それは、退院の目処が立ったということか。


何時に、どこで、どんな格好をして待ち合わせしようか。


聞きたいことは、たくさんあったけれどひとまず私は大きく首を縦に振り、彼の誘いを受け入れた。


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