エリーの純愛~薬草を愛でる令嬢は拗らせた初恋を手放したい~
穏やかな日々
ラベンダーの美しい花色が、見る人々に癒しと幸福をもたらす季節。紫色の大地が目の前に広がり、人々の心を魅了する。穏やかな風が吹くたびに、優しく爽やかな香りが漂い、心が穏やかに包まれるようだ。
そんな花たちに魅せられた人物が一人。
太陽の光を受けて、プラチナブロンドの髪と澄んだ水色の瞳が輝いている。だが、その表情には少しばかりの寂しさが漂っているようだ。
「こんなに素敵な香りなのに、あなたの想い人は気づいてくれなかったのかしら……」
(相手に想いを伝えることができなかったのは、私と一緒ね)
紫の花に触れながら、呟きを漏らす姿はなんとも感傷的だ。
そんな彼女の名はエリー。この地域を管理するシャロン伯爵家の三女である。
王都にある女学院の侍女科を18歳の時に卒業し、従姉で公爵令嬢のエリザベス・ローレンの元で侍女として働いていた。だが、ちょうど一年が過ぎようとするときにお暇をもらうこととなった。
外交職に就く父親と、そんな彼を支える母親と姉たちは、王都のタウンハウスで生活をしている。その彼等と離れて生活をする祖母を、エリーは以前から心配していた。そんな不安に思っていたことが、最近になって現実のものとなってしまった。
侍女をしていたエリーの元に、「祖母が体調を崩した」との報せが届いた。
従姉はすぐに、祖母の元へ向かうようにとエリーに指示を出した。伯爵令嬢のエリーが、自ら動こうとしても周りが騒がしいため、公爵令嬢の従姉が命令という形をとったようだ。
母親たちが姉妹ということもあり、本人たちも同じような関係を築いてきた。昔から何かと融通をきかせてくれる従姉に感謝をしながら、エリーは急いでこの地へとやって来た。
憂いる思いと共に。