エリーの純愛~薬草を愛でる令嬢は拗らせた初恋を手放したい~
 四人は良い考えが浮かばずに困った様子のまま食事を進めた。
 食事も終わりに差し掛かるころ、ステラがさりげなく言葉をもらした。

「王妃様は、こちらにお越しになることを楽しみにしていらっしゃったのに、今年も難しそうですね」

「そうなのよ。『ラベンダー畑を間近で見てみたい』とおっしゃっていたそうだから、残念よね」

「王妃様は本当にラベンダーがお好きなのですね。早くご覧いただきたいですね」

 ステラとナタリーの何気ない会話に驚いた様子のエリー。

「それは、公務として訪問する予定があったということかしら?」

「公務で二つ先の領地に訪問した際に、こちらまで足を延ばされる予定だったそうですよ。王都からは距離がありますから、こちらにだけ訪問するということは出来ないのでしょうね。その予定されていた訪問も延期になってしまったので、次の訪問予定は未定なのです」

 ダニエルの言葉に、「そうなの……」とつぶやきながら何かを考えている様子のエリー。

「収穫前の景色を何かに残せないかしら……。私は絵心がないし、今から画家を探して依頼するにも時間が足りないわ。——ステラ?」

「はい。エリーお嬢様どうかされましたか?」

「ステラ、ラベンダー畑の絵を描いてはもらえないかしら? サシェに刺繍されたラベンダーの図案もとても素晴らしかったわ」

「エリーお嬢様、私に絵画の心得はございません。刺繍の図案を描くのとは訳が違います。それに私が描いたものを王妃様にお渡しするなど恐れ多いことです」

「それなら、刺繍タペストリーにすれば良いんじゃないかしら。刺繍の図案だと思えば、ステラも描きやすいのではない?」

 ステラはナタリーの言葉を聞いても首を縦に振らない。そんなステラを熱い眼差しで見つめるエリー。

「——『あなたを待っています』 いつまでも、この場所は貴女が訪れる日をお待ちしています、というメッセージを送りたいの。それに、その風景を見て少しでも癒しになれば良いと思って……」

「——!! エリーお嬢様……、わかりました。私、心を込めて描かせていただきます!」

「ありがとう、ステラ。私もできることがあれば何でもするわ」


 そんな二人を側で見ていたナタリーとダニエルは顔を見合わせた。

「そうだったわ。ステラはロマンティストなのよね……」

 ナタリーの発言にダニエルは無言で頷いた。
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