エリーの純愛~薬草を愛でる令嬢は拗らせた初恋を手放したい~

薬草園と作業場

 初夏の季節

 ロンマルク地方ではラベンダーの開花時期を迎えていた。
 この時期になると観光客も増え始め、街が賑わいをみせる。

 もちろんラベンダー畑にも観光客が訪れる。そのため畑の手入れをする者たちは、景観の妨げになることを避け、いつもより早い時間に作業を開始する。

 ラベンダー畑を楽しみにしている観光客に、「花と香りを楽しんでもらいたい」皆、そんな思いだけで美しい花を維持するために労力をかける。
 除草や水やりはもちろんのこと、病害虫がいないかを確かめながら手入れをする。

 エリーもまた、観光客が訪れるラベンダー畑の手入れを済ませると、販売するラベンダーを育てる商業用の畑へと移動する。その場所でも同じ作業を繰り返す。

 この日も午前中の作業が終了すると、エリーとダニエルはナタリーとステラの元へと向かった。昼食を共にしながら、エリーはナタリーにラベンダーの生育状況を報告している。

 観光用のラベンダー畑と違い、香りや品質を重視する商業用の畑は収穫時期が早い。そのため報告と相談は欠かせないようだ。

「それで、早めに収穫したラベンダーを乾燥させている間に、一緒にタペストリーを制作してほしいの。ステラにも負担をかけてしまうけどお願いできるかしら?」

「もちろん、私はそのつもりですよ。大奥様からもそうするようにとお話をいただいております」

 エリーはステラに感謝すると、午後からの作業場所である薬草園に向かって行った。


 屋敷の裏手には、代々のシャロン伯爵夫人たちが大切に守ってきた薬草園と、少し古びた木造建ての作業場がある。

 そこで摘んだハーブや薬草を洗い、乾燥させたものを作業場に運んで保存する。今はナタリーの代わりに、エリーが全ての工程を一人で行っているようだ。

 幼少期のエリーは、この作業を覚えるくらいナタリーから離れずについていた。
とりわけ、この作業場で祖母がハーブの調合をする姿を眺めるのが大好きだった。

 かつて目にしていた光景の中で、今は自分がハーブの調合をしている。

 嬉しそうな表情で作業をしているが、時折エリーの視線と手元には控えめな態度がうかがえる。

(ここは私が好き勝手して良い場所じゃないわ。ゆくゆくはお母様とエマちゃんの場所になるんだから……)

 
< 6 / 9 >

この作品をシェア

pagetop