エリーの純愛~薬草を愛でる令嬢は拗らせた初恋を手放したい~

秘めた想い

 ラベンダーの花が開き始めた頃

 商業用の畑では、エリーや使用人たちが総出でラベンダーの収穫作業を行っていた。
 早朝の涼しい時間、作業に慣れた者たちは、黙々と手を動かしている。

「エリーお嬢様、そろそろ私たちは仕分け作業に入りましょう」
「そうね。ダニエルありがとう。まだ要領が掴めていなくて……助かるわ」
「大丈夫ですよ。作業を何度も繰り返すうちに自然と身体が動くようになりますから」

 エリーはダニエルに頷き返すと、ラベンダーが入ったカゴを両手に持ち、畑近くの作業場へと向かっていった。

 二人の他にも慣れた者たち数名で、質の良い花を選別しながら、不要な部分を取り除いていく。仕分けたものは洗浄が必要なものは洗浄に、その他のものは束ねて吊るして乾燥させる。
 そんな作業を繰り返すうちに、午前の時間が終わる。これを数週間行うようだ。

 エリーとダニエルは、作業仲間たちを休憩に行かせると、畑の確認を済ませてからナタリーのいる部屋に向けて歩いて行った。


「二人ともお疲れさま。さあ、お昼にしましょう」

「はい」

「お待たせいたしました。それでは失礼いたします」

ナタリーに席につくように勧められたエリーとダニエルは、いつもの定位置に腰掛けると今日の報告をし始めた。ナタリーはその話を聞きながら、頷き返事をする。

「作業は順調そうね」

「ええ。私はダニエルに教わりながら作業をしているけど、皆は慣れているし、助けられているわ」

「それは良かったわ。まだまだ作業は続くけどよろしくね」

「はい」

「ところで、タペストリーの図案なんだけど、ステラが描き終えたそうよ」

「早いわ。それなら、今日明日にでも刺繍を入れられるかしら」

「そうね、早く始めた方が良いかもしれないわ……」

「お祖母様、心配しているの? 大丈夫よ、今ステラにも刺繍の手ほどきは受けているし、ステラの足を引っ張らないように頑張るわ」
「……違うのよ、刺繍の心配はしていないわ」

 するとそこへ、皆の昼食を調理場へ取りに行っていたステラが戻って来た。

「エリーお嬢様、図案できあがりましたよ。こちらです」

「っ!! ……すごいわ……ステラ、素晴らしいわ……でも、これ2、3ヶ月で終わるかしら……」

「これは……大作になりそうですね」

「喜んでいただけて良かったですわ!」

 ステラは図案をエリーに見せるため常に持ち歩いていたようだ。ステラのやる気に火をつけたのはエリーだが、こんな大型の図案を見せられるとは思っていなかった。エリーは呆然とした後、瞬きを繰り返しながら気持ちを落ちつかせているようだ。

「ステラ……ありがとう。私……やってみるわ」

「お嬢様、頑張りましょうね!」

「……ええ」
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