スパダリ救急救命士は、ストーカー被害にあった雑誌記者を溺愛して離さない~必ず君を助けるから。一生守るから俺の隣にいろ~

6.黒髪美人

「まだ付き合ってないの?」
「う、うん」
 あれから1週間経ち、手首もすっかり治った。

 メッセージの送り合いはしているけれど、実はあの日以来、一度も蓮には会っていない。
 残業はほとんどないそうだが、勤務体制が24時間勤務という特殊な労働時間で、明けの休みは寝てしまうことが多いそうだ。

「でも明日、会う約束をしていて」
「じゃあ、付き合ってって言うのよ!」
「えぇっ、私から?」
「女は度胸!」
 そんな会話を芽依としたのに――。

『ごめん、熱があって。今日会えなくなった』
 蓮からのメッセージに、瑠花は目を見開いた。

『お見舞いに行ってもいいですか?』
『うつすといけないから来ない方がいい』
 来ないでと言われたけれど、飲み物とかプリンとか差し入れするくらいなら許されるかな……?
 渡してすぐ帰ればいいよね……?
 瑠花はお気に入りのケーキ屋さんでプリンを買い、薬局で解熱剤を、近所のスーパーで喉が痛くても食べられそうなものを選んで蓮のマンションに向かった。

「全然既読にならない……?」
 ケーキ屋へ行く前にメッセージを打ったのに、なかなか既読にならない。

 具合が悪くて寝ているのかな?
 時間をずらす?
 でも起き上がれないくらい具合が悪いのだったら、解熱剤だけでも渡したい。
 しばらくどうしようか迷ったが、瑠花は勇気を出して蓮の部屋のインターホンを鳴らした。

「はいは~い、宅配?」
「えっ?」
「あら? えっと……?」
 部屋の扉を開けたのは綺麗な大人の女性だった。
 モデルさんですか? と聞きたくなるようなスタイルの良さと、長いツヤツヤの黒髪が綺麗な女性だ。

「蓮のお見舞い?」
 ……名前、呼び捨てなんだ……。

「あ、あの、熱が出たと聞いたので、これを」
 瑠花は買ってきたものを袋のままグイッと美女に差し出す。

「中に入る?」
「い、いいえ。うつすといけないから来ないでと」
 瑠花はお辞儀をすると急いでその場を離れた。

 ……なんだ。
 期待して馬鹿みたいだ。
 あんな綺麗な彼女がいるなら、優しくしないでほしかった。
 瑠花は涙を拭いながら自分のマンションへ。
 いつまでたっても既読にならないメッセージの送信を取り消し、「お大事に」と送り直した。

 付き合おうなんて言われていない。
 暴漢から助けてくれて、スマホが壊れたのは蓮のせいではないのに服を買ってくれて、デートみたいにお店を回っただけ。
 怪我をしていたから親切にしてくれていただけ。
 面倒見がよくて、優しいだけ。

「……優しすぎるって、残酷だよ……」
 瑠花はスマホの電源をOFFにし、布団に潜りながら泣き続けた。
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