運命かもしれない。

5:恋かもしれない。

「ゴホッ、ゴホッ」

「あらら、これは完全に風邪ひいたわね」


ベットの横では、お母さんが困ったように体温計を見ていた。


あの後、家に帰った私はすぐ部屋に向かい、ベットにダイブした。


どうしよう、どうしよう、どうしよう


そんな言葉が何十回、何百回と頭の中を回っていた。その後私は寝てしまったけど、朝起きたらこの有様だ。


これは、加藤くんを傷つけた罰だ。


「私は学校に連絡していくから、今日は安静にしていなさい」

「、、、うん」

「机にレトルトのお粥置いとくから。本当はいてあげたいんだけど、今日はごめんね」

「ううん、大丈夫。いってらっしゃい」


私の母はシングルマザーだ。今日のように休日でもバリバリ働いて、一人で私を育ててくれたとても優しいお母さんなのだ。だから、私は少しでもお母さんに迷惑をかけたくない。


お母さんが出勤して家に一人になると、途端に昨日のことを思い出す。


驚いた顔がみるみる悲しそうな表情になって。
私が悪いのに、謝らしてしまった。


そんな反省にもならないことを、悶々と考えていると尚更頭痛が酷くなる。







どれだけ時間が経ったのだろうか。私は気づかない間にまた寝ていた。


「体調、どう?」

「へ、、、?」


急に話しかけられて、私は思わず変な声を出してしまった。
熱のせいか目に涙が溜まって、視界がぼやける。


そういえば、さっきさっちゃんに連絡したっけ。


「あ、ちょっとだるい、かも」

「冷えピタ貼ろうか。冷やしておいたから、ちょっと
持ってくる」


なんてできる子なのだろうか。持つべきものは友とはこのことだと、私はしみじみ思う。


「じゃあ貼るから、前髪どかして」

「うん、、、」


前髪を上げて額を見せると、そこにヒヤッと冷えピタが触れる。


「ひゃっ」

「あ、ごめん。平気?」


私が目を開くと、そこにはなぜか加藤くんがいた。



???



「えっ、さっちゃんじゃないの!てかなんで加藤くん、私の家知って、、、」

「ああ、花園さんから連絡もらって。私はいけないから言ってやってって言われたから」

「え、えーっ!」



話を聞いていくと、だんだん熱が冷めていく。
でも、この寝起きの私を見られていると思うと、また頬が熱くなる。


「、、、昨日のせいだよね、この風邪」

「あ、、、」


そうだ。昨日私が彼を傷つけてしまったのだ。


私は身を乗り出して加藤くんに近づいた。


「本当ごめん!言い間違えたの!加藤くんに無理って言ったわけじゃなくて、、、あ、いや、違う意味ではそうなんだけど、、、。で、でもキャパオーバだったと言うか、、、!!ゴホッ、ケフッ」

「だ、大丈夫!?落ち着いて、話聞いてるから」


そう言って加藤くんは私の背中をさすってくれた。あんなひどいことを言ったのに、そんな人でも加藤くんは優しくしてくれるのか。
彼の優しさに、涙が溢れてきた。


「、、、昨日、森谷さんのこと考えないで触ろうとした。なのにちゃんと謝らないで、一人残して帰っちゃって。、、、本当に、ごめん」

「っ、違うの!確かにびっくりして手、払っちゃったけど、、、。でも加藤くんが嫌だったわけじゃないの」

「、、、ほんと?」


いつもは見せない、そのきゅるんとした目に、私は思わず心臓を掴まれそうになった。


危ない、真面目な話をしているのに、、、!


「う、うん。ほんと!」


すると加藤くんはしゃがみ込んで

「はぁ〜っ!」


と、びっくりするくらいの大きなため息をついた。


な、なに!?


「俺、、、森谷さんに嫌われたかと思った」

「そんなわけない!むしろすっ、、、」

「えっ。す、、、?」


わ、私今何を言いかけた!?


顔にボボボボッと熱が走る。ためだってば、今そんな顔にしたら、バレるって!


でも、よく見ると加藤くんも同じ、、、?


「、、、期待していいのかな?」

「な、なにを!?」


私が焦ってあたふたすると、鼻を何かがかすめた。
そのまま顔に影がかかって、私の唇に温かいものが触れる。



ちゅ



その温もりは、加藤くんが帰った後でも残っていた。
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