「側についていて」
小学生の頃に、かけられる迷惑は全てかけちまったんじゃねえかと思えるくらい、荒れて荒れて荒れ果てていた俺は、中学に入学してすぐに母親のこけた頬と、華奢を通り越して棒きれのように痩せちまった体にやっと気が付いた。
それでも、元気な証拠だと言ってくれた母親に、人面ナントカに取り憑かれているだなんてバレるわけにはいかない。
心労がさらにたまるだろうし、医療費や祈祷代を支払わせるのだって忍びない。
「次の授業は、なんの教科ですか?あ、帰りに文房具を揃えるお小遣いは持って来ていますか?」
「楽しそうだな、アンタ。…あ、そういえば名前、…あんの?名前」
「桃華です!木暮さんは、悠大ですよね!ノートに綺麗な字で書いてありました!」
「桃華…その顔で桃華…いや、なんでもねえ。文房具くらいなら買えるから。教室着いたから静かにしてろよ」
まさかの美しい字面で、グシャっと潰れているような顔立ち、いやまあ顔立ちって言っていいのかわかんねえけど、その見た目からは想像もつかない名前をしていた。
可憐なイメージの響きには似つかわしくない、赤い斑点で形作られた目の部分がむにゅっと盛り上がり細められたのを見て、俺はまくっていた半袖の裾をグイっと下に引っ張った。