「側についていて」

 今度は右手のひらで耳を塞いで寝ようとする。
 それでも声は、- 女の声だ - 延々と話しかけて来る。
 今までよりは遠のいたように感じるけれど、それでも確実にすぐ側で聞こえて来るその声。
 どうやら、俺以外に聞こえているやつはいないようだと言うことくらいはわかる。

 幽霊かなんかか?こんな真昼間に?俺、霊感なんか1mmもねえぞ。

 「ふっふっふ、逃れようとしても無駄です。貴方は私からは離れられない。つまりはこの声からも。さあ、起きて授業を聞いて、板書をして」

 ひそひそ話をする時のように、息遣いまで届くってのに、本当にこの世に生きるものではないのか、ちょっとはオバケらしいことを言う。

 ただ、天気の良い穏やかな昼下がりに凄まれても、ちっとも怖くはない。
 ついでに言えば、俺よりもその声の主の方がどこか戸惑っていると言うか、困惑しているのを押し隠して無理をしているかのような声音だったのだ。

 もういいや。
 目が覚めたら消えてるだろ。
 夢にせよ、夢じゃないにせよ、言うこと聞かない俺に呆れてどっか行ってくれ。
 こいつは俺に授業を受けさせたいようだし、頑なに無視をして真面目に取り組まなきゃ、とっとと退散するだろ。
 そうやって、みんな俺のことを諦めるのが当然なんだから。

 「…では、作戦を変えましょう。…う、…ううっ、…ぐす、…うっ、…ぐす、ぐすんっ、…の、ろ、う、…、」

 非常に鬱陶しいことに、声の主は恨めし気に泣き出した。
 姿かたちがをどこにも見つけることが出来ないので、もしかしたら泣き真似かもしれないけれど、女の泣く声なんて気持ちのいいモンじゃない。
 こっちが悪い、と責められているような気分だ。
 俺、何にもしてねえんだけど、なんなの?

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