「側についていて」
マヌケだけど、自転車乗ってパン食ってたんだよ。
そんで、横断歩道は赤になってたのに、女子高校生が一人、そこを突っ切るように駆け出して来たから、ブレーキをかけた。
向かい側にトラックが見えて、あぶねえ、って声をあげて、恐怖からか立ち止まってるその女子高校生に向かって手を伸ばした。
最初に彼女に接触したのは俺の方で、後で痴漢だなんだと騒がれても命優先だろ、と思って抱き込んで横にとぼうとしたんだ。
でも、間に合わなかったみたいで、右肩に何かがドンとぶつかる衝撃に、道路に二人して倒れ込んだ。
どうしてこんなオオゴトを、今まですっかり忘れてたのか、自分でも良くわからなかったけれど、その後の記憶がひどく曖昧だ。
気が付いたら教室に居て、数学の授業で前田の子守唄に船をこいでた。
で、そんな俺のことを起こしたのが、こいつだ、この、声の主。