「側についていて」
「わあー!この学校いいですね。屋上があるんですね。あ、肌寒い、風強い、もういいです、閉めて」
「まだ6月だしな。今日は暑い方だと思うけど。で、なんでアンタそんなとこにいんの」
「さあ、どうしてでしょう。私にもイマイチ仕組みはわからなくて」
「妖怪だったの。オバケの方がマシなんだけど」
「オバケみたいなものです!元気出してください」
俺の右肩の下辺り、二の腕の上にある大きな青アザには、目のような赤黒いうっ血と鼻のようなコブ、口のような横に裂けた傷があり、女の声がするたびにその口の部分がモゴモゴとうごめいていた。
声は正直可愛らしかったけれど、いかんせん見た目がバケモン。
目のうっ血は真っ赤なブツブツの集合体によってその形状を保っていたし、鼻のコブに出来た二つの穴は鼻の孔なんだろうけれど、醜く歪んで左右の大きさも違っている。
口に関しては、エグイとしか言いようがなかった。
ザックリと割れて内部の肉がてらてらと光っているにも関わらず、血は一滴たりとも流れていない。
「なにこれ…宇宙人に改造でもされたの、俺は」
「ファンタスティックですね!でも、人面瘡だと思いますよ」
「人面…、なに、やっぱ妖怪なわけ」
「私、学校に行ってみたかったんです!学校で勉強がしてみたかった。だから、木暮さん、私と勉強頑張りましょう!」
「だから、の後からなんか変じゃね?」
「良い成績が取れたら、満足して成仏するかもしれないですよ」
「…やっぱりオバケなの?妖怪に成仏とかねえだろ」
「どんなことでも、良い方の可能性を信じるのが生きることを楽しむ秘訣ですよ!」
やたらと前向きなバケモンは明るく元気にハキハキとそんなことを言うと、どうやらニッコリと微笑んだらしかった。
いいから!微笑まなくって!きっしょいだけだから!!
裂けた傷がぐにゃあっと真横半月の形に曲がると、チラリと白いものが覗いた。
まさか骨かと思って焦ったら、どうやらこの女の八重歯だったようで、どのみち俺の骨かなんかで出来てんじゃねえの、とガクっと落ち込んだ。
このまま陽気なバケモンに、俺の体は乗っ取られちまうんだろうか。