秋に吐く息
じゃん。

「お、いたか」
「なによー、来いってライン寄越したじゃん」
「いっつも来ないじゃん」
「そうでもないじゃん」
「照れてんの?俺に会いたくなったんじゃん?」
「じゃんじゃんうるさいんじゃんじゃんじゃーん!」

 ここはオシャレなバーとかじゃなくて、時間帯も場所も煌びやかなネオン集まる夜の歓楽街ってわけでもない。
 こじんまりとしたワインバーの二階にある、そのバーの店主が趣味でやっているヴィンテージのお洋服が並ぶ古着屋さんだ。そして、昼。真っ昼間。

「やっさん、もう行ったの?誰、ナニコチャン?」
「知らん!B子ちゃんじゃないの~。お腹空いたよ~」
「ほら、どっちがいい?おむすびか、パンか」
「炭水化物は嫌!!」
「フリスク食ってろフラれ女」

 八畳程の空間を、出入り口である扉一枚分あけて、ぐるりと頑丈なハンガーラックが囲んでいて、隙間なく洋服が引っ掛けられている。

 なにがしかの法則性に沿って重ねられている衣類たちは、とりあえず色でまとめられているわけではなさそうだ。

 ハンガーのフックで埋め尽くされた鉄パイプは、天井近くに一本、中間に一本、降り注ぐ布地のオーロラの下には棚板、床には引き出しや、様々な靴が並べられている。

 それらへの興味が、私にはさっぱりないので、店主がいなければここに滞在している理由はほぼほぼ皆無なのだけれど。
 祐輔(ゆうすけ)が来たことで、少しは口を開く楽しみが見つかったように思えた…、のは、ほんの一瞬だった。





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