秋に吐く息
この短い時間、私はぎゅっと手を握り締めて、うつむかないようにうつむかないように、と心の中で唱えながら、やっさんの濃いアイラインを眺めている。
ほんの少しだけ、目の端っこで、祐輔の背中を見送る時。
なんで。
なんでだろうね。
ごめんね、だなんて思っちゃうの。
おっかしいの。
スニーカーの、軽快に階段を下って行く音色は。
タンタンタンタン、タタン、ターンタン。
じゃあ、祐輔が一番好きな映画の挿入歌にしとく。
「…安恵さん、あの、お土産なんて、悪いです。いつも良くして頂いてるのに」
「そんなこと言わないで。ミサちゃんの喜ぶ顔、見たいのよ」
「…はい、嬉しいです」
「ふふ、覚えてる、これ」
「わあ、びっくりした!やだあ、覚えて、た!あはは、懐かしーい!」
「はい、手を出してね」
ぐい、っとチューリップハットを目の下まで引っ張られてしまう。
ただでさえ私は頭が小さめで、この帽子は多分海外製品で大き目に作られているものだ。
あっと言う間にパッチワークのカラフルな色合いと可愛らしい柄で視界が塞がれてしまう。
同じだ、でも、あの日とは全然違う。
あの日の私は、安恵さんの中では祐輔の彼女候補だったし、今日の私は誰の彼女でもない。
だけど、でも、誰のものでもないのかと言われると、ちょっとそこんとこ、上手く説明出来ない。