秋に吐く息

贈り物


 指先が安恵さんの体に触れない一歩手前で、計算されたかのように花開く。
 左右の小指と小指をくっつけて、爬虫類の卵を受け取る気分で、手のひらの内側に芸術的な丸みを作る。

 ぽと、っと軽い感触と、目の前がひらけるのは同時で、思わずお土産の方ではなくて安恵さんの顔を見上げた。

 だって、それが何か、わかってしまったから。
 知ってる重みだった。
 それは、二度目の贈り物だ。
 一度目の時、私は大声で泣いてしまった。
 バーの営業が終わって、べろべろに酔っ払った私は、とても帰れる状態ではなくて。
 これを、安恵さんにもらった。

 腰を折ってチューリップハットの右側をめくると、安恵さんは唇を私の耳に寄せる。

「おいで、ここに、今夜もね」

 大切なものを、大切に包み込む、大切な方法で、大切だと伝わるように。
 例えそれが私だけでも。

 あなたにとっては、暇つぶしの戯れでしかなくても。はい、と頷いて、しっかり顔を上げて見せるのは、せめて不様じゃないようにって。

 とろけた心臓を抱えて、二人でくるまったジグザグの太陽模様のタペストリーが埃っぽかったんだ。
 どこかの民族が伝統的な繕い方でしらえた、立派で貴重な素晴らしいものを、悪戯な行為で汚したりして、もったいない、バチがあたるって呟いたら、爆笑されたの、覚えてる。



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