秋に吐く息

 クツワムシって、暗くなって来てから一番やかましく鳴く虫。
 だから、私はクツワムシなの。

 環境破壊で絶滅すると思うから、生きている間は大声で叫ばせて。
 生きてる。生きてる。生きてる。
 抱いて。抱いて。抱いて。
 あなたが好き。
 本当は、あなただけが好き。

 声が枯れて喉が裂けて必死で真っ赤な息を吐く。

 あの日も今日みたいな秋だった。
 一年、私は生きていた。
 そのご褒美ですか?
 ねえ、安恵さん。
 今日だけじゃいやだよ。
 また私を呼んでよ。
 絶対に呼んでよ。
 何度でもここでしてよ。

 この身を焦がしていられる間、大人しくだなんて出来ないよ。

 お土産として手のひらにやって来たこの店の鍵を、そっと壊れ物を扱うように、バッグの内ポケットに仕舞う。
 私の神様。
 優しい目をした嘘まみれの神様。
 正しい丸みを帯びた頭のリボン。
 腰に手のひらを回す。
 乱れた巻きスカートのリボンは、見なかったことにする。
 キスをくれる、俗っぽいことが大好きで、もう一緒に堕天して欲しい。
 私を天使ちゃんと呼ぶ、くだらない大人。

 私の体に出したらさ、今夜、あのブローチの物語を聴かせてね。



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