秋に吐く息

 祐輔が近づくいて来て、私が寄りかかっているショーケースのすぐ右側のお洋服の山の中から、カチャカチャとハンガー同士をぶつけて、何度か隙間を作っている。

 こいつは背丈が同じだから、ハイヒールを履いている私が上半身を丸めている今、ちょっとだけワタシノオトコぶるつもりだ。

 何してるんだろう、このスペースはレディースものしかないのに。
 ああ、そうか。レディース。なるほど。
 選んでるんだ、私に。
 古着屋さんにある、私にはちんぷんかんぷんなお洋服を。
 気まぐれな、祐輔らしい。
 もしかしたら、元気にしようとしてくれてる?
 まーさかーないないない。

 くすんだ虹色カラーのフードつきパーカーを引っこ抜いて、私の背中に合わせて、それからやっと床にあるソレに目を落とす。

「あれ?客いたの?片づけなくていいのかよ、バイト」
「バイトじゃないもん。これはやっさんが脱いだやつだよ」
「おまえら何してたの、こんな白昼堂々」
「何もしてないよ。あれだね、やっさんは、下着まで手を抜いてないね」
「見習えば」
「うるさいじゃ、」
「じゃんじゃんじゃーん、じゃじゃんーじゃーじゃーん」

 祐輔が私で遊んでるのなんかいつものことじゃん、じゃんじゃんじゃーんだ。慰めてくれることを期待した記憶は出会ってから2年間で1度たりともない。

 って言うかやめて、そのじゃんじゃんじゃーんのメロディ、前に会った時に観た映画のエンディングじゃん。めちゃくちゃ切なくて、つらくて、ってなお決まりのお涙頂戴シーンで、私が必死で泣くの我慢してたやつだ。



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