秋に吐く息

 …顔、隠してたのに、祐輔が無理やり見たの、結局、涙腺崩壊しちゃってたとこ。笑いやがった。
 感情豊かで良いですね、だなんて、羽交い締めにされて、そう、その最中もずっと流れてた曲だ。

 わざとだ、わざとわざとわざとだ!
 あん時だって、しゃくりあげる私のこと、コロンコロンとせわしなく体勢かえさせてさ。
 大サビに合わせて四つん這いにして腰振ってたクズだもん、その上この仕打ちって、全くもってひたすらクズでしょ。

「もう、…来るんじゃなかった。はあ、しんど」
「マジで元気ないの。服でも買えば。ほら、これとか絶対似合う」
「ふざけんな。トナカイの頭だろそれ。あ、祐輔、バイト何時からなの?」
「トナカイとバイト繋げないで。休みになったから、ミサと会おうと思って」
「そうなの?せっかくの休みなのに?なんで、私となの?」
「俺、ミサといるの好きだから」
「…そ。そ!、あっそ!!」
「やっさん帰って来たら、一階、開けてもらおーぜ」

 やっさん、安恵やすえさん、私の憧れの彼女は彼はあなたは君はあのひとは、恋人でも好きな人でもなくて正真正銘心のVIP。
 生きる神域。
 だって彼女がパワースポットだ。会えば私に生気が漲る。今日だって、そうなるはずだった。

 私は飄々とした祐輔のムカつく投球をモロに受けたりせずに、開眼した抜群のセンスでもってバンバン打ち返せたはずなのだ。



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