タイムカプセル

タイムカプセル


 私には勇気がない。思い切りもないし、もしかしたら情熱や意欲が欠けているのかもしれない。違うよ、夢がないの、試してみないと!と、彼女は笑った。

 幼い頃に警察官になりたいと両親に言ったら、そんな危険な職業よりもケーキ屋さんやお花屋さんが良いよ、と甘く優しい声で諭されて、あっさりと私は頷いた。

 小学校中学年になり、パティシエになりたいと言った時は、修行が大変だの、今の時代の菓子職人は突出した才能や個性が必要で、芸術性を認められるような発想豊かな見栄えの作品を作ることが出来ないと人の目を惹くことは出来ない、と言われ、諦めた。

 そんな私は今、真夜中に校庭の端の松の木の下に鎮座する、芸術性を認められて石を掘ることを生業としたのであろう人物が依頼されて作った、校歌が描かれている不可思議な形状をした石碑の脇の土を、持ってきた小さなスコップで掘り返していた。
 この日私が手に入れたのは、夢だ。

 ー もう何も、怖いものなどないわ。

 それなのに、二十歳になる今、覚えているのはプリーツスカートから伸びた黒いタイツを纏った脚の、膝の部分が伝線して出来た赤い血が滲む肌色のがらんどうだ。

 彼女の書いた手紙の中にいた、未来の私はどこにもいない。



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