糖度8%
・
校長「皆さん、本日はご入学おめでとうございます。天候にも恵まれ、皆さんの………」
愛華「…………………」
堅苦しい挨拶と校長先生の長い話は、昔から苦手だ。
どうも理にかなってないというか
おめでとう、って祝う立場なのに自慢話ばかりを繰り広げてるから。
晴れてこの成平高校に合格し、今日はその入学式。
慣れない制服に身を包んだ私は肩までかかった髪の毛を束ねることなく無機質な顔で席に座ってた。
ステージに立って喋る校長先生を眺める
愛華「……ふわぁ、」
………眠い。
苦手なんて言葉で濁したけど前言撤回
やっぱり、嫌いだわぁ
「続きまして、新入生代表挨拶。
代表、中島湊。」
「はい!」
・
確か受験で面接の時に聞かれた、中学時代一番頑張ったことは何か。と
「ね、あの人かっこいい~」
「北中の中島くんだよ、サッカーすっごい上手なんだって。」
「勉強もできて運動もできて……って完璧じゃん!」
「きっといっぱい努力してるんだろうな~かっこいい~」
部活だと答えた、吹奏楽部でトランペットやってたから
部員みんなで切磋琢磨しながら一つの曲を完成させたこと、なんて
取って書いたようなテンプレートを堂々と言ったっけ。
愛華「………………………」
でも本当は……一度もない
何かに頑張ったことも、一生懸命になったことも。
湊「新入生代表、中島湊!終わります!」
拍手が鳴りやまない体育館、私もみんなにつられて手を叩いた。
隣の席に座ってる同級生はその人をかっこいいかっこいいと連呼する
……そういうことさえ、私は俯瞰する癖がある。
愛華「………………」
ほら、今みんなの前で立ってるあの人みたいに
誇らしいくらい堂々とした輝かしい何かを、私は持ってない。
……羨ましいって、どこかでそう思ってる自分がいた。
・
入学式が終わり、クラスに帰って初めてのHR
「えー君たちは、この由緒ある成平高校に入学することができた数少ない精鋭だ。
是非誇りを持って3年間を過ごしてほしい。」
クラス全員自己紹介、それから担任の先生からの話を終えると
教室内は自然と一つの話題で盛り上がっていった。
「ね、立花さんはどこの大学目指してるの?」
愛華「私?」
「やっぱ東大?成平来たからには目指したいよね~私はさ………」
そう、進路。
入学したばっかりだっていうのに、もう卒業後の話?
愛華「………………はははぁ、」
………噂には聞いてたけど、すごいところだった。成平高校
友達は出来た、あっという間に仲良くなれた。
だけどみんな自己紹介で志望大学を言うもんだからそりゃあビックリ
だってまだ高1の春だよ?今高校生になったばっかじゃん!って言いたかったけど
普通に息するみたいにサラーッと口から大学が出てくるんだから頭がいいって怖い。
・
窓の外を見ると、入学式だっていうのに桜はもう散っていた。
グラウンドにはすっかり葉桜になった桜の木がたくさん並んでて
そこにはさっき私が通ってきた校門、うじゃうじゃと溜まってる人だかり
……ん?なんだ、
「それと、うちは文武両道を掲げてるからなるべくみんな部活には入ってくれよ
さっそく今日から部活勧誘始まってるからな~」
愛華「…部活勧誘?」
担任の言葉に耳を傾けて、それからもう一度窓の外に目をやる。
……あの人だかり、部活勧誘の人たちか
えーって、やだなあ…って思う。
正直、部活に入るつもりはない。
吹奏楽は中学でもうこりごりだし、だからってやりたいこともないし
別に成平に入ったのだって行きたい大学があるからでもない。
文武両道掲げてるなんて、知らなかった……
愛華「やってしまった…………、」
初日から、大誤算じゃないか!
・
「ねえ!中島くんはサッカー部入るの?」
湊「え?おう!あったりまえ!そのためにここ来たんだからさ!」
「そうなんだ!うちのサッカー部そんなに強いの?」
HRが終わり自由に帰っていいのに、その私の行く手を阻むような人だかりが教室にも一つ。
湊「強い?かは知らねえけど、中学ん時憧れだった先輩がここのサッカー部だからよ!」
新入生代表挨拶してた、中島湊くん。
まさかの同じクラスだった。
彼の周りには2,3人の女の子がウジャウジャとよってたかって楽しそうにお喋り
中島くんがサッカー部に入るというと、じゃあマネージャーになるなんて言ってる。
……すごいな、なんて積極的。
湊「おー!じゃあ一緒にサッカー部んとこ行こうぜ!!」
そして中島くんは、思った以上にフレンドリー。
絶対中島くん目当てで言ってるってわかってないのかな?
だとしたら天然にもほどがないか?
中島くんと愉快な仲間たちは仲良く教室から出ていって、一気に静かに。
聞いたことがある、新入生代表挨拶をする人は首席で合格した人だって
愛華「……………元気だなあ、」
あれで勉強もできるなんて……そりゃあモテるに決まってる。
窓の外に目をやると、校門の前は人の多さが増していた。
愛華「…うっ」
あの中を通る自信…全くない。
もし仮に全然興味ない部活に声かけられても無視する自信も断る自信もない
それにうちの中学からこの高校に来てるのは私だけ、つまり知り合いもいない。
愛華「一人であそこを通る………?」
ブルッ
……無理、無理だ絶対無理!!
首をブンブン振って全力拒否、じゃあどうしようと思ってると
パッと目に映ったのは、校舎の上にある柵だった。
………ん?
愛華「もしかして………屋上?」
・
人が少なくなった教室で、ひとりごとをボソッとつぶやいた。
窓に手のひらをつけて見える柵をじーっと眺めてると
ウズウズと興味が湧いてきて
…中学の時、屋上は立ち入り禁止だった。
だから興味はある。それに行ってみたかった。
…よしっ、こうなったら。
愛華「入れたり…するのかなぁ。」
どうせ今帰ろうとしても無理なんだ、だったら
人が冷めるまで、ちょこっと寄ってみようかな。
校長「皆さん、本日はご入学おめでとうございます。天候にも恵まれ、皆さんの………」
愛華「…………………」
堅苦しい挨拶と校長先生の長い話は、昔から苦手だ。
どうも理にかなってないというか
おめでとう、って祝う立場なのに自慢話ばかりを繰り広げてるから。
晴れてこの成平高校に合格し、今日はその入学式。
慣れない制服に身を包んだ私は肩までかかった髪の毛を束ねることなく無機質な顔で席に座ってた。
ステージに立って喋る校長先生を眺める
愛華「……ふわぁ、」
………眠い。
苦手なんて言葉で濁したけど前言撤回
やっぱり、嫌いだわぁ
「続きまして、新入生代表挨拶。
代表、中島湊。」
「はい!」
・
確か受験で面接の時に聞かれた、中学時代一番頑張ったことは何か。と
「ね、あの人かっこいい~」
「北中の中島くんだよ、サッカーすっごい上手なんだって。」
「勉強もできて運動もできて……って完璧じゃん!」
「きっといっぱい努力してるんだろうな~かっこいい~」
部活だと答えた、吹奏楽部でトランペットやってたから
部員みんなで切磋琢磨しながら一つの曲を完成させたこと、なんて
取って書いたようなテンプレートを堂々と言ったっけ。
愛華「………………………」
でも本当は……一度もない
何かに頑張ったことも、一生懸命になったことも。
湊「新入生代表、中島湊!終わります!」
拍手が鳴りやまない体育館、私もみんなにつられて手を叩いた。
隣の席に座ってる同級生はその人をかっこいいかっこいいと連呼する
……そういうことさえ、私は俯瞰する癖がある。
愛華「………………」
ほら、今みんなの前で立ってるあの人みたいに
誇らしいくらい堂々とした輝かしい何かを、私は持ってない。
……羨ましいって、どこかでそう思ってる自分がいた。
・
入学式が終わり、クラスに帰って初めてのHR
「えー君たちは、この由緒ある成平高校に入学することができた数少ない精鋭だ。
是非誇りを持って3年間を過ごしてほしい。」
クラス全員自己紹介、それから担任の先生からの話を終えると
教室内は自然と一つの話題で盛り上がっていった。
「ね、立花さんはどこの大学目指してるの?」
愛華「私?」
「やっぱ東大?成平来たからには目指したいよね~私はさ………」
そう、進路。
入学したばっかりだっていうのに、もう卒業後の話?
愛華「………………はははぁ、」
………噂には聞いてたけど、すごいところだった。成平高校
友達は出来た、あっという間に仲良くなれた。
だけどみんな自己紹介で志望大学を言うもんだからそりゃあビックリ
だってまだ高1の春だよ?今高校生になったばっかじゃん!って言いたかったけど
普通に息するみたいにサラーッと口から大学が出てくるんだから頭がいいって怖い。
・
窓の外を見ると、入学式だっていうのに桜はもう散っていた。
グラウンドにはすっかり葉桜になった桜の木がたくさん並んでて
そこにはさっき私が通ってきた校門、うじゃうじゃと溜まってる人だかり
……ん?なんだ、
「それと、うちは文武両道を掲げてるからなるべくみんな部活には入ってくれよ
さっそく今日から部活勧誘始まってるからな~」
愛華「…部活勧誘?」
担任の言葉に耳を傾けて、それからもう一度窓の外に目をやる。
……あの人だかり、部活勧誘の人たちか
えーって、やだなあ…って思う。
正直、部活に入るつもりはない。
吹奏楽は中学でもうこりごりだし、だからってやりたいこともないし
別に成平に入ったのだって行きたい大学があるからでもない。
文武両道掲げてるなんて、知らなかった……
愛華「やってしまった…………、」
初日から、大誤算じゃないか!
・
「ねえ!中島くんはサッカー部入るの?」
湊「え?おう!あったりまえ!そのためにここ来たんだからさ!」
「そうなんだ!うちのサッカー部そんなに強いの?」
HRが終わり自由に帰っていいのに、その私の行く手を阻むような人だかりが教室にも一つ。
湊「強い?かは知らねえけど、中学ん時憧れだった先輩がここのサッカー部だからよ!」
新入生代表挨拶してた、中島湊くん。
まさかの同じクラスだった。
彼の周りには2,3人の女の子がウジャウジャとよってたかって楽しそうにお喋り
中島くんがサッカー部に入るというと、じゃあマネージャーになるなんて言ってる。
……すごいな、なんて積極的。
湊「おー!じゃあ一緒にサッカー部んとこ行こうぜ!!」
そして中島くんは、思った以上にフレンドリー。
絶対中島くん目当てで言ってるってわかってないのかな?
だとしたら天然にもほどがないか?
中島くんと愉快な仲間たちは仲良く教室から出ていって、一気に静かに。
聞いたことがある、新入生代表挨拶をする人は首席で合格した人だって
愛華「……………元気だなあ、」
あれで勉強もできるなんて……そりゃあモテるに決まってる。
窓の外に目をやると、校門の前は人の多さが増していた。
愛華「…うっ」
あの中を通る自信…全くない。
もし仮に全然興味ない部活に声かけられても無視する自信も断る自信もない
それにうちの中学からこの高校に来てるのは私だけ、つまり知り合いもいない。
愛華「一人であそこを通る………?」
ブルッ
……無理、無理だ絶対無理!!
首をブンブン振って全力拒否、じゃあどうしようと思ってると
パッと目に映ったのは、校舎の上にある柵だった。
………ん?
愛華「もしかして………屋上?」
・
人が少なくなった教室で、ひとりごとをボソッとつぶやいた。
窓に手のひらをつけて見える柵をじーっと眺めてると
ウズウズと興味が湧いてきて
…中学の時、屋上は立ち入り禁止だった。
だから興味はある。それに行ってみたかった。
…よしっ、こうなったら。
愛華「入れたり…するのかなぁ。」
どうせ今帰ろうとしても無理なんだ、だったら
人が冷めるまで、ちょこっと寄ってみようかな。