人食い寺と新聞部
☆☆☆

新聞部の資料より

『岩通川都市伝説ファイルその1 自殺の踏み切り』

この町にはいくつかの線路が走り、いくつかの踏み切りが存在する。
踏み切りの数は2箇所だと言われているが、霧が濃い夜になると3つめの踏み切りが出現するらしい。

それはこの岩通川中学校から南へ3キロほど行った先にある、山道へ続く道路にある。

そこに行けば今は廃路線となった線路があり、周りは草木に覆われている。
昔は山道へ入るためにそこに踏み切りが設置されていたのだそうだ。

今は山道も新しくなり、入り口は別の場所にある。

だから踏み切りは私達が生まれてくるずっと昔に撤去されているのだけれど、霧の濃い夜になるとボンヤリと姿を見せるらしい。

そして夜に溶けるような切なげな音がカンカンカンカンと鳴り響いている。
その警笛音はまるで人が泣いているように聞こえるらしい。

なんでも、その踏み切りでは過去に赤ん坊を抱いた母親が事故に遭って亡くなったんだとか。

母親は育児に協力的でない夫と意地悪な姑との3人暮らしで、その日は赤ん坊の夜泣きが激しかった。
一生懸命泣きやまそうとお乳をあげたり、抱っこをしてもダメだった。

次第に焦り始めたとき夫と姑が起き出してきて「子供もロクに泣きやませられないダメ人間が!」と罵られた。
そらから夫は「外で泣きやませてこい。そいつが泣き止むまで帰ってくるな」と母子を夜の町に放り出してしまった。

なにをしても泣き止まない赤ん坊。
帰っても心安らぐ場所はない。

育児ノイローゼになっていた母親は子供をおんぶしたまま線路へと進入した。

そんな話が囁かれている。

真夜中に出歩いていた人の中には、その音に引き寄せられるように存在しない踏み切りへ近づいて行き、線路の中へと引き込まれる。

そしてそのまま、行方知らずになるのだ。

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