【1話だけ大賞】勇気が生んだ奇跡
勇気が生んだ奇跡
* * *
「陽乃、アンタまた彼氏と別れたんだって?」
いきなり母からそう言われた私は、「えっ! お母さん、なんで知ってるの!?」と思わず立ち上がってしまった。
「暁人くんから聞いたの!」
「えっ!?」
アイツー!また余計なこと言ったな!
暁人とは、私の小学校からの幼なじみだ。中学も高校も大学も一緒というまさに腐れ縁だ。
「アンタ、今度の人は何ヶ月で別れたのよ?」
「……三ヶ月」
言いたくないけど聞かれたのだから仕方ない。
「三ヶ月? なんでいつも一年も経たずに別れちゃうのよ」
「そんなこと言われたって、しょうがないじゃない。浮気されたりとか、浮気されたりとか……なんだから」
大体付き合った人には浮気されることが多いし、なんなら既婚者と付き合っていたこともあった。
既婚者だと聞かされていなくて、危うく不倫になってしまうところだったり……。
私の恋愛連歴を辿っても、いい恋愛を一つもしていないことが見て取れる。
「アンタ、そういうとこ私に似ちゃったのね〜」
「はい?」
「私も昔から男運、なかったから。可哀想に、私に似ちゃったのね〜」
母は私を産んだから時からシングルマザーとして、私を育ててくれた。
いわゆる未婚の母、というヤツだ。その後結婚を三度しているけれど、それも長くは続かず現在はバツ三だ。
母も男運がないようで……どうやら私も母に似てしまったようだ。
母はもう再婚はしないと決めているようで、彼氏は作るけど……結婚はしないとのことだ。
とはいえ、母にも幸せになってほしいと娘として願ってはいる。
「お母さんってさ、結婚して良かった?」
そう聞くと、お母さんは「何?いきなり?」と返答する。
「だってさ、もう結婚する気はないんでしょ? それって結婚というものに対して、マイナスな考えになっちゃったってこと?」
「それは違うわよ。 もちろん、結婚して良かったとは思ってる。……結婚なんて、人と人との価値観のぶつかり合いなのよ」
価値観のぶつかり合い……?
「価値観なんて、合わなくて当然なのよ。人と人なんだから、考え方なんて違って当然よ」
続けてお母さんは「いい、陽乃? お母さんが離婚したのは、一人で生きていく方がやっぱり楽だなって思ったからよ」と話してくれる。
「三回結婚したけど、三回ともお母さんにとって貴重な経験にはなった。それぞれみんな優しかったし、みんなそれぞれいいところがあったし。 もちろん、ケンカもしたけどそれはいい思い出よ」
「……そっか」
「一人でも生きていけると証明されたからこそ、お母さんはもう結婚はいいかなって思ったの。 あ、でもやっぱり恋はしたいんだけどね」
お母さんの結婚というものに対する価値観や考え方を聞いたら、なんかちょっとすごいなって思えた。
「お母さん、陽乃には幸せな結婚をしてほしいと思ってる」
「幸せな結婚?」
幸せな結婚って……なんだろう。
「陽乃は、お母さんみたいになっちゃダメだよ。ちゃんと陽乃のことを幸せにしてくれる人と、結婚しなきゃダメだからね」
「……現れるかな、そんな人」
私が付き合う人みんな浮気するし、既婚者だったし。そんな私が幸せになれる自信はないな……。
「何言ってるの?陽乃はまだ二十七でしょ? 人生まだまだこれからよ。きっと陽乃を幸せにしてくれる人はいるわ」
お母さんからの言葉を聞くと、私なんてちっぽけだと思えてしまう。
「ありがとう、お母さん。ちょっと元気出たよ」
「そう? あ、今日の夕飯唐揚げでいい?」
「うん、唐揚げがいい」
そんなお母さんが、私はカッコイイとさえ思えているのは、お母さんだからだと思う。
* * *
「お疲れ様でした〜」
「お疲れ様!」
気付けば、年が明け一月になり一週間が過ぎていた。
お正月の休みが終わり仕事が始まってから、数日が経った時のことであった。
「おい、ナメてんのかコラッ!!」
「……っ!?」
えっ、なに……!?
細い路地を入ったところで、一人の男性が数人の柄の悪そうな男性四人に絡まれていた。
「も、もう……勘弁してくださいっ」
「あ? てめえの父ちゃんが借金返さねえのが悪いんだろ?なあ?」
な、なにやってんの!あの人たち!?
「ほら、さっさと金返せっての!!」
「ゔっ……!」
一人の男性が怯えている男性のお腹を思いきり殴り付ける。
見ていられなくなった私は、思わず「ちょっと、あなたたち何をしているんですか!?」と飛び込んでしまった。
「あ? なんだてめえ?」
「部外者は入ってくんな!」
数人が私に怒鳴り付けてくるけど、一人のリーダーらしき人が私のことを見て怪しくニヤリと微笑んんだ。
「おい姉ちゃん、コイツの知り合いか?」
「違いますけど」
「なら引っ込んでろ!!」
「……おい、待てお前ら」
リーダーが話し出すと、同時にリーダーの方に視線を向けている。
「おい姉ちゃん、コイツが父ちゃんの借金返さねえんだよ」
「だからって、その人を殴るのはルール違反じゃないですか?」
怯むことなく強気な態度を取っていると、リーダーが私に「だったら姉ちゃん、姉ちゃんのその身体使って、コイツのこと助けてやりなよ」と言ってきた。
「……はあ?」
コイツ、何言ってんの?
「お前、俺の女になりな」
「はあ? リーダー、何言ってんすか!?」
「……はっ?」
俺の女……? ちょっと、何言ってんのかわからない。
「お前が俺の女になれば、コイツの借金はなかったことにしてやるってのはどうだ?」
「アンタ、何言ってんの? 頭おかしい!」
私がそう話すと、その男は私に向かって「なんだ。見知らぬ男を助けるために俺たちに割って入ってきたのはそっちだろ?」と言い返してきた。
「そ、それは、アンタたちがその人を殴ったからでしょ!?」
なのに俺の女って! 意味がわからなすぎる!
「だから、俺の女になればコイツの借金はチャラにしてやるって言ってんだ」
「辻褄が合ってません!」
ふとうずくまるその弱々しい表情を浮かべる男性と目が合ったが、その男性は泣きそうな目で私を見つめている。
まるで私に゙あの男の女になってくれ゙と訴えられているみたいな顔で私を見ている。
「どうだ?俺の女になってコイツを助けたら、お前はコイツにとって命の恩人だな?」
「ふざけないで!誰かアンタの女になんてなるもんですかっ!」
私がそう叫んだら、リーダーらしき男が「だったら、お前を無理矢理にでも俺の女にするしかねえな」と低い声で私たちに言った。
「……っ!」
な、何するつもり……?!
「このまま俺の女になるのと、俺に無理矢理ヤラれるのと、どっちがお好みだ?」
私の身体をグッと引き寄せて私に聞いてくる男に、私は何も言えなくなってしまった。
「答えないなら、無理矢理お前を俺のものにする。……いいな?」
「っ……やだっ! やめてっ」
無理矢理キスをされそうになった私は、もうダメだと思い目を閉じたーーー。
「おい、そこの野郎ども。俺の女に何してる」
「……え?」
誰かが男たちに向かってそう言っているのが聞こえた。
えっ……誰? 目の前にはスラッとした男性が立っていた。
「あ?なんだてめえは。 これからこの姉ちゃんとお楽しみタイムなんだ。邪魔するな」
リーダーの男がそう言ったら、そのスラッとした男性は「聞こえなかったのか?俺の女に何をしてるのかと言ったんだ」と返答した。
「お前、この姉ちゃんの男か?」
「そうだ。その汚い手で、俺の大事な人に触れるのはやめてもらおうか」
誰だかわからないけど、カッコイイ……。
「大丈夫か?美加子」
美加子……? なるほど。私は美加子という女性のフリをすればいいのね。
「う、うん。大丈夫」
「そろそろ、その汚い手を離してもらおうか」
「あ? なんだと?」
「その汚い手を離せと言ったんだ。聞こえなかったのか?」
「てめえ……調子乗ってんじゃねえぞ!」
「……っ!?」
リーダーの男持っていたナイフをポケットから取り出すと、その人に向かってナイフを向けた。
な、ナイフ……!? なんでこんなものもってるのよ!?
そう思った時には「あ、一つ言い忘れた。 俺はこういう者だけど」とポケットから警察手帳を取り出した。
「け、警察……!?」
警察手帳を見た途端、リーダーの男は目を見開いている。
そのままその男性は「十八時三十三分。銃刀法違反と、それから暴行罪。そして恐喝及び公務執行妨害で現行犯逮捕する」と告げ、手錠を掛けたーーー。
「大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございました」
「全く、女一人であんなヤツらに立ち向かおうなんて無謀だ」
そう言われたら本当にそうなので、何も言い返せない。
「す、すみませんでした……」
「でも、一人でよく頑張ったな」
その人が私に向けた小さな微笑みに、私は目が離せなくなってしまったーーー。
【1話だけ大賞完】
「陽乃、アンタまた彼氏と別れたんだって?」
いきなり母からそう言われた私は、「えっ! お母さん、なんで知ってるの!?」と思わず立ち上がってしまった。
「暁人くんから聞いたの!」
「えっ!?」
アイツー!また余計なこと言ったな!
暁人とは、私の小学校からの幼なじみだ。中学も高校も大学も一緒というまさに腐れ縁だ。
「アンタ、今度の人は何ヶ月で別れたのよ?」
「……三ヶ月」
言いたくないけど聞かれたのだから仕方ない。
「三ヶ月? なんでいつも一年も経たずに別れちゃうのよ」
「そんなこと言われたって、しょうがないじゃない。浮気されたりとか、浮気されたりとか……なんだから」
大体付き合った人には浮気されることが多いし、なんなら既婚者と付き合っていたこともあった。
既婚者だと聞かされていなくて、危うく不倫になってしまうところだったり……。
私の恋愛連歴を辿っても、いい恋愛を一つもしていないことが見て取れる。
「アンタ、そういうとこ私に似ちゃったのね〜」
「はい?」
「私も昔から男運、なかったから。可哀想に、私に似ちゃったのね〜」
母は私を産んだから時からシングルマザーとして、私を育ててくれた。
いわゆる未婚の母、というヤツだ。その後結婚を三度しているけれど、それも長くは続かず現在はバツ三だ。
母も男運がないようで……どうやら私も母に似てしまったようだ。
母はもう再婚はしないと決めているようで、彼氏は作るけど……結婚はしないとのことだ。
とはいえ、母にも幸せになってほしいと娘として願ってはいる。
「お母さんってさ、結婚して良かった?」
そう聞くと、お母さんは「何?いきなり?」と返答する。
「だってさ、もう結婚する気はないんでしょ? それって結婚というものに対して、マイナスな考えになっちゃったってこと?」
「それは違うわよ。 もちろん、結婚して良かったとは思ってる。……結婚なんて、人と人との価値観のぶつかり合いなのよ」
価値観のぶつかり合い……?
「価値観なんて、合わなくて当然なのよ。人と人なんだから、考え方なんて違って当然よ」
続けてお母さんは「いい、陽乃? お母さんが離婚したのは、一人で生きていく方がやっぱり楽だなって思ったからよ」と話してくれる。
「三回結婚したけど、三回ともお母さんにとって貴重な経験にはなった。それぞれみんな優しかったし、みんなそれぞれいいところがあったし。 もちろん、ケンカもしたけどそれはいい思い出よ」
「……そっか」
「一人でも生きていけると証明されたからこそ、お母さんはもう結婚はいいかなって思ったの。 あ、でもやっぱり恋はしたいんだけどね」
お母さんの結婚というものに対する価値観や考え方を聞いたら、なんかちょっとすごいなって思えた。
「お母さん、陽乃には幸せな結婚をしてほしいと思ってる」
「幸せな結婚?」
幸せな結婚って……なんだろう。
「陽乃は、お母さんみたいになっちゃダメだよ。ちゃんと陽乃のことを幸せにしてくれる人と、結婚しなきゃダメだからね」
「……現れるかな、そんな人」
私が付き合う人みんな浮気するし、既婚者だったし。そんな私が幸せになれる自信はないな……。
「何言ってるの?陽乃はまだ二十七でしょ? 人生まだまだこれからよ。きっと陽乃を幸せにしてくれる人はいるわ」
お母さんからの言葉を聞くと、私なんてちっぽけだと思えてしまう。
「ありがとう、お母さん。ちょっと元気出たよ」
「そう? あ、今日の夕飯唐揚げでいい?」
「うん、唐揚げがいい」
そんなお母さんが、私はカッコイイとさえ思えているのは、お母さんだからだと思う。
* * *
「お疲れ様でした〜」
「お疲れ様!」
気付けば、年が明け一月になり一週間が過ぎていた。
お正月の休みが終わり仕事が始まってから、数日が経った時のことであった。
「おい、ナメてんのかコラッ!!」
「……っ!?」
えっ、なに……!?
細い路地を入ったところで、一人の男性が数人の柄の悪そうな男性四人に絡まれていた。
「も、もう……勘弁してくださいっ」
「あ? てめえの父ちゃんが借金返さねえのが悪いんだろ?なあ?」
な、なにやってんの!あの人たち!?
「ほら、さっさと金返せっての!!」
「ゔっ……!」
一人の男性が怯えている男性のお腹を思いきり殴り付ける。
見ていられなくなった私は、思わず「ちょっと、あなたたち何をしているんですか!?」と飛び込んでしまった。
「あ? なんだてめえ?」
「部外者は入ってくんな!」
数人が私に怒鳴り付けてくるけど、一人のリーダーらしき人が私のことを見て怪しくニヤリと微笑んんだ。
「おい姉ちゃん、コイツの知り合いか?」
「違いますけど」
「なら引っ込んでろ!!」
「……おい、待てお前ら」
リーダーが話し出すと、同時にリーダーの方に視線を向けている。
「おい姉ちゃん、コイツが父ちゃんの借金返さねえんだよ」
「だからって、その人を殴るのはルール違反じゃないですか?」
怯むことなく強気な態度を取っていると、リーダーが私に「だったら姉ちゃん、姉ちゃんのその身体使って、コイツのこと助けてやりなよ」と言ってきた。
「……はあ?」
コイツ、何言ってんの?
「お前、俺の女になりな」
「はあ? リーダー、何言ってんすか!?」
「……はっ?」
俺の女……? ちょっと、何言ってんのかわからない。
「お前が俺の女になれば、コイツの借金はなかったことにしてやるってのはどうだ?」
「アンタ、何言ってんの? 頭おかしい!」
私がそう話すと、その男は私に向かって「なんだ。見知らぬ男を助けるために俺たちに割って入ってきたのはそっちだろ?」と言い返してきた。
「そ、それは、アンタたちがその人を殴ったからでしょ!?」
なのに俺の女って! 意味がわからなすぎる!
「だから、俺の女になればコイツの借金はチャラにしてやるって言ってんだ」
「辻褄が合ってません!」
ふとうずくまるその弱々しい表情を浮かべる男性と目が合ったが、その男性は泣きそうな目で私を見つめている。
まるで私に゙あの男の女になってくれ゙と訴えられているみたいな顔で私を見ている。
「どうだ?俺の女になってコイツを助けたら、お前はコイツにとって命の恩人だな?」
「ふざけないで!誰かアンタの女になんてなるもんですかっ!」
私がそう叫んだら、リーダーらしき男が「だったら、お前を無理矢理にでも俺の女にするしかねえな」と低い声で私たちに言った。
「……っ!」
な、何するつもり……?!
「このまま俺の女になるのと、俺に無理矢理ヤラれるのと、どっちがお好みだ?」
私の身体をグッと引き寄せて私に聞いてくる男に、私は何も言えなくなってしまった。
「答えないなら、無理矢理お前を俺のものにする。……いいな?」
「っ……やだっ! やめてっ」
無理矢理キスをされそうになった私は、もうダメだと思い目を閉じたーーー。
「おい、そこの野郎ども。俺の女に何してる」
「……え?」
誰かが男たちに向かってそう言っているのが聞こえた。
えっ……誰? 目の前にはスラッとした男性が立っていた。
「あ?なんだてめえは。 これからこの姉ちゃんとお楽しみタイムなんだ。邪魔するな」
リーダーの男がそう言ったら、そのスラッとした男性は「聞こえなかったのか?俺の女に何をしてるのかと言ったんだ」と返答した。
「お前、この姉ちゃんの男か?」
「そうだ。その汚い手で、俺の大事な人に触れるのはやめてもらおうか」
誰だかわからないけど、カッコイイ……。
「大丈夫か?美加子」
美加子……? なるほど。私は美加子という女性のフリをすればいいのね。
「う、うん。大丈夫」
「そろそろ、その汚い手を離してもらおうか」
「あ? なんだと?」
「その汚い手を離せと言ったんだ。聞こえなかったのか?」
「てめえ……調子乗ってんじゃねえぞ!」
「……っ!?」
リーダーの男持っていたナイフをポケットから取り出すと、その人に向かってナイフを向けた。
な、ナイフ……!? なんでこんなものもってるのよ!?
そう思った時には「あ、一つ言い忘れた。 俺はこういう者だけど」とポケットから警察手帳を取り出した。
「け、警察……!?」
警察手帳を見た途端、リーダーの男は目を見開いている。
そのままその男性は「十八時三十三分。銃刀法違反と、それから暴行罪。そして恐喝及び公務執行妨害で現行犯逮捕する」と告げ、手錠を掛けたーーー。
「大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございました」
「全く、女一人であんなヤツらに立ち向かおうなんて無謀だ」
そう言われたら本当にそうなので、何も言い返せない。
「す、すみませんでした……」
「でも、一人でよく頑張ったな」
その人が私に向けた小さな微笑みに、私は目が離せなくなってしまったーーー。
【1話だけ大賞完】