お利口?不良?ハイスペ御坊ちゃまがご令嬢と熱愛してスパダリになっちゃいました♡

3.お姫様に勝手にしないでよ

「なんですか?」

 本から目を外し顔をあげた皆城芳乃の声は、心の底から天野律に冷たかった。

「病ませちまってゴメンなってだけだよ」

 何事かとクラスメイトがギャラリーの様に輪を作る。

「律戻ろうぜ、つまんないって」
「皆城さん転校して来て天野君のこと知らないだけだから、そっとしておこ?」

 友達が、女子の前で慰めて来るのに、調子が狂って来た俺は、ボールをコートに戻す様に放り投げ、目の前の子にガンを飛ばす。

「謝ってるように見えないんだけど」
「先に手を出して来たのはそっちだろ。なんで体育の授業中に自分の趣味してんの?」
「私の人生は私で決める。学校でもないし、ましてや目の前の気持ち悪い男の訳ないでしょ」

 律と芳乃は口が開けば、声を荒げないように、落ち着いて落ち着かせに口喧嘩を始めた。

「転校生でグレてる。それで構ってもらえなくて、冷たくして気だけでも惹きたい子供ね、まあ本もよく似合ってんじゃねえか?」
「だったらなに?でもそれは〝アナタ〟なんかにじゃない」
「なんか腑に落ちたわ、邪魔したよ」

 律は、自然と溢れ出る涙を見せないように、一人で教室に戻ろうとした。

「何処行くんだって、あの子に拗ねてんのか?」

 親友の颯馬が肩を貸すように付いてくるのにだけは従い、他の友達や女子が来るのだけは彼の目が止めてくれた。

♢♢♢
RITSU

「めっちゃ涙出る。好きでもなんでもないのに」
「不貞腐れてんだよ、上手くいき過ぎた」
「あのブスに勘違いしそう。もっと止めろって」

 教室に戻った俺と颯馬は、小学生で中学生モテしてたのに、一人の女子のお陰様で小学生の初心に後退した男同士の慰め合いに戻されてしまった。

「だったら交通事故だろ」
「頭に血が昇りそうになったし、そうかも」

 どんだけ動いても嫌な汗一つ搔かない俺は、颯馬からファブリックミストを受け取り、吹きかけながら身体中の熱を冷ます。

「ぶっちゃっけた話聴いていいか?」
「俺から言うよ。Destiny。全部俺が悪いし、負けちまってた。それに…」
「相当勝手に嫌われてんな、一目惚れがお前からってみんなの前でこれからどーすんだモテ男」
「らしくねえ。別に惚れてねえし、ムカつく女ってだけだ。勘違いすんな」
「なんも言えねえよ」

 更衣し終えた二人は、いつものように過ごす男の友情を取り戻した。すると、律は黒板の日直欄を消し、天野律 天乃木颯馬に書き換え、愛想傘を追記したのだった。

♢♢♢
Yoshino

「信じられない。私のこと知らないのってこっちのセリフよ」
「お嬢、天野君ってみんなに平等なだけだよ、彼女がいるって噂も聴いたことないもん」

 顔だけの男じゃないとなにかに吸い込まれる様に天野律、彼を見つめてしまった私は、スカート丈を初めて気にしてしまった。

「意識させないでよ、ほんとに目障り」
「自意識過剰だもんね、だったら天野君を気にしないで過ごさないとだ」
「男なんて本で十分。だって大人が好きなの」
「みんな聴いてない。お嬢落ち着いて」

 人を煽って面白がらないでよ。私はあの男に興味なんかないってずっと言ってる。

「釣り合ってないし、あんな男の何処がいいのか分からない」
「うんうん。女の子の敵だもん、みんなお嬢の味方だから、あれだよね」
「裏切ったりしないよ。だって、お嬢には敵わないから笑」

 ちょこまかちょっかいかけてくるのが嫌って言ってるのと立った私は、似合わない体操服を着替えに教室に一人で戻った。

♢♢♢
Yoshino

(退屈。小学生のレクリエーションになんで、大人な私が付き合わないといけないの?)

 机をヘビに見立てる様に並べてジャンケンをする、勝ったら次の先頭の人とジャンケンをして負けたら最後尾に戻る。だからなに?

「お嬢すみません、勝っちゃいました」

 あーあ、私がもうすぐポールをタッチしてこんなくだらない遊びを終わらせて本の世界に戻れたのに。

「別に悪いことしてない。気にしないで」

 変わった子みたいに見ないでよ、美しいだったり綺麗な私に拗らせてるの、そんな私を可愛いなら可愛いってハッキリ言えばいいのに。そういうとこ男子って意気地ないわね。

「やっぱり隣もレクやってんじゃん。俺達も混ぜろって」
「ヘビジャンケンか。律がもっと面白え遊び思いついたって、俺達のクラス大盛り上がりでよ。上がっていいか委員長」

 うーわヤンキーが来た。追い返しなさいと委員長に手紙を渡す。

「あの…お嬢のお手紙読みますね…律様とお遊び出来るなら私はなんだって」
「ええと、お嬢ってなに?笑」
「お嬢って言うのは笑」
「もういい。そうやって二人して私のこと虐めたいだけでしょ?帰るし、もう来ない」

 私はランドセルなんか持ってないと、ブランド物のバックを持って、貧乏人なんてそんなんだから嫌いと教室から出て行く。

「颯馬。手荒でもいい、くだらない女のバックを窓から投げ捨てろ」
「律、正気か?」
「死んだるっつてんだよっ!もういいわ!」

 ちょっとちょっとなに!? 天野律が、急に血走った眼で私を追いかけて来た。

「誰か止めてよっ!」

 クラスの誰も、このストーカー男を止めてくれないんですけど!?

「お前なっ!」
「アナタなんか嫌いって言ってるの!本気でやめて!」

 犯罪者にバッグを持った手を握られ、咄嗟に悲鳴を出す。

「自分勝手に人に迷惑ばっかかけんなよ、俺以外から嫌われたらどうすんだ」
「アナタの好きなんか知らないって言ってるの。私を困らせないでよ」
「そうやって全部俺のせいにしてくれんの?」

 ヒューヒューと男子の口笛が煩く感じるのなんてどうでもいい、そんなことより…

「なに?いけないわけ?実際そうとしか言えないでしょ」
「俺、お前に決めたわ。それも悪くないって思えるし」

 この男どういうこと?なんでコイツの中で勝手に私の話が進んでんの!?

「私の人生をアナタが勝手に決めるなっ!前も言ったわよね」
「…悪かった。気をつけるよ」

 咄嗟にもう片方の手をあげてしまったのを、彼は止めてはくれなかった。

「誰も止められません。私占っちゃったんです笑」
「ビックリしたよね!?」

 クラスメイトが私のことでなにか勝手したらしい声が聴こえる。

「運命なんてないし、占いなんか信じない。こんな男と絶対に付き合わないから喧嘩ばっかりしてるんでしょ!?」
「だったら、お前が俺に告れ。それまでずっと誰の返事もしない」

 急に私の視界に飛び込んで来た天野律が、急に私の視界から消えていく日常が始まりを告げた。
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