ドSなあなたへ、仰せのままに。
それからと言うもの、南様が私に対して話しかけたり、雑用を押し付けてくることも無くなった。
「あれ、海、今日は行かなくていいの?」
昼休み。
毎日、4限目のチャイムが鳴ると慌ただしく教室を出て行っていた私が、今日は教室にいることを不思議に思ったのか、メイが不思議そうに話しかけてくる。
「うん、今日はいいんだ」
内心で思っていることがバレないように、なるべく笑顔を取り繕うけど……。
ため息をつきたい気持ちでいっぱいだ。
「じゃ、お弁当一緒に食べよ?」
いそいそと机を移動させたメイは、ユウカたちを呼び寄せてお弁当を広げた。
……行かなくて、いいよね。
ーー朝の身支度を整えて、南様の部屋に入ると、そこにはもうすでに南様はいなかった。
近くにいたメイドさんに聞くところによると、車の登校らしい。
おまけに連絡は一切なし。
そこで勘づいたのである。
きっと私は、南様から避けられている。……と。
「あ、そういえば1年生の南くんって知ってる?」
「あぁ、ちょっと噂になってる?」
「ぶっ」
彼のことについて考えていることがまるでバレているかのように張本人の話題が出てきて、過剰に反応した私の体が、飲んでいたお茶を混ぜ返しそうになる。
な、なんてタイムリーな話題……!
「ちょっと、大丈夫ー?」
「しっかりしてよ海ー」
「あは、ごめんごめん」
よ、よかった。出てきた人物に過剰に反応してしまったこと、バレていないみたい。
笑い飛ばしながらも、2人が続ける会話の内容に耳をすませた。
「ウチの友達がね、南くんのこと好きらしくてさ?」
「へっ!?」
「「え?」」
今度は、信じられない内容にかじっていたメロンパンを落としそうになってしまう。
「あ……いやいや、それでそれで?」
ま、まずい……。今日は色々とボロが出てしまいそうな日だ……。
特にボディガードであるということを隠さなければいけないことはないんだけど……。
もしもそれが広まってしまえば、この仕事の目的に支障をきたす可能性も十分にあるんだから、注意しないと……。
首を傾げていた2人が、再び会話を続け出したことに胸をホッと撫で下ろしながら、お口にチャックをしようと口に力を入れた。
「とにかくイケメンらしいんだよねぇ……」
「へぇー、ウチ1回だけ見たことあるかも」
「まじ?友達がフリーなのかどうかわかんないって言っててさー?ーー……」
その南くんとやらは、きっとあの南様のことでしょう……。
イケメンということは認める。事実だから!
で・も!!
ピュアな恋をしたいなら、あんなのは絶対にやめた方がいい!人に平気で指図するドSな悪魔だもん!
ーーなんて、言えるわけがないけど……。