ドSなあなたへ、仰せのままに。
"ごめん"
でも、もうすぐで言えそうだった3文字が彼に届くことはなかったーー。
「っ!伏せて!」
「うぉ……っ!」
南様の背後に忍び寄る大きな影、そして、青い火花が視界に入った途端、反射的に叫んだ。
そして、私の声に驚く彼の膝裏に足を入れ、強制的にしゃがませる。
ジジジッ!ジーッ!
行き場を失った青い火花が、音を立てて私の手によって止められた。
ーースタンガン。
どうしてこんなものが……!?
まさか、襲撃……。
私は、すぐにヤツの手にあるスタンガンを不意打ちで蹴り飛ばす。
まだ油断しちゃいけない。何かを隠し持っているかもしれない。後援がいるかもしれない。
その人物は、全身黒ずくめで、パーカーのフードをかぶっている。それに、夜の暗闇に包まれている場所と言うこともあって、顔はよく見えなかった。
しかし、190ほどある大きな背丈と、掴んだ手首の骨格から、おそらく男性だ……。
「沖瀬!」
体勢を崩した南様が、焦ったように叫ぶ。状況が理解できたみたいだ。
「俺、助けをーー……」
「私の後ろにいて!離れないでっ!」
すぐに表の通りに助けを求めに行こうとする南様にそう叫ぶ。
今表通りに行けば、きっと人はいるだろう。ーーでも、この状況で、コイツの仲間がいないとは言い切れない。
絶対に1人にするわけにはいかない。
「はっ、こんな女がボディガードかよ……?なめやがって!」
こんな女って何よ……!?私は、すぐに相手の鳩尾を狙って膝を突き出したものの、体格も違えば、手足の長さも違う。
攻撃を打ち込めない……っ!
苦戦する私を嘲笑うかのように、男は、振り上げた私の腕を軽々と掴んだ。
「っ!」
すぐさま、幼い頃から身につけていた合気道術で距離を取ろうとするもののーー……。
「させねぇよ」
やはり、体格と力の差が圧倒的だった。あっけなく防がれた私の両手。攻撃手段。
しかも、私の今の服装は制服。いつもスーツの内側に常備している武器も、緊急連絡手段も、何も持っていない。
勢いよく振り上げられた男の拳に、ギュッと目を瞑った。
その時だった。
「グハッ……!」
「沖瀬!大丈夫か!」
そんな声と共に、地面に叩きつけられる衝撃。
何が、起きたの……?
体勢を立て直そうとすぐに起き上がる。見れば、男は地面に倒れていて。
瞬時に、南様が助けてくれたことを理解した。
今しかないーー。
「連行する」
ブレザーの内ポケットから出した簡易手錠が、男の手首を施錠したーー。