ドSなあなたへ、仰せのままに。
「ーーはい、承知しました」
使用人室ーーそれは、南家という大豪邸の中で、住み込みで働くボディガードの私に与えられた自室。
短く返事をしてそのまま電話を切ると、私はベッドの下から大きな革製の箱型バッグを引き出した。
ーーあれから、私の属している組織の後始末部隊に連絡を終え、本部に報告を入れていたところだった。
捕まってよかったけど……きっとあの男は、誰かの命令のもとで動いていたに違いない。
あの男のことについては、本部の人たちからの情報を待つことにした。
「それにしても、やっぱ持っておかなきゃダメかぁ……」
手入れをしようと開いたバッグには、マットな質感の黒塗りのピストルたち。
これがなければ、いくら遠距離戦が得意だと言っても話にならない。
でもでも、毎日学校に持って行かなきゃって考えるとリスクが……。
「いや、ダメダメ!今日、これがなかったせいで危なかったんだから……!」
独り言をブツブツと呟きながら、専用のブラシで、銃器の内部に溜まった埃を掻き出していく。
こうして定期的にメンテナンスしておかないと、いざという時に使えない!なんてことにならないから。
「うーん……これ、かな」
私は、バッグの中から一丁のピストルを取り出した。
私が持っている物の中では1番小さくて比較的頑丈、引き金も硬めだから、間違えても誤発砲なんてことには絶対にならない優れもの。
手荷物部分が深いブラウンの革製で、それ以外は光沢のあるシルバーなのも推しのポイントなんだけど……。
「これならギリギリポケットに入るかな……?」
まずい、私のポケットの中身がどんどん重くなっていく。それも、物騒な物ばかりで。
はあ、バレないように頑張ろ……なんてため息をついた時。
「沖瀬、入るぞ」
ガチャ、という音と共に、遠慮のかけらもなく開かれるドア。
その声は、紛れもない南様……!
「へっ!?ちょ、まって!きゃぁぁあっ!」
嘘でしょ……!?ノックもなしに入ってくるなんて!
しかも、私の両手には、ピストルとピストル。床にもピストル。カバンの中にも、ピストルーー……。
「んだよ、別にお前のことなんか女としてーー……」
相変わらず私のことを見下すように笑った彼の視線が、私の両手でフリーズする。
「み、み、見ないでぇぇぇっ!」
広大で立派な南家に、私の必死の叫び声が響いたーー。