ドSなあなたへ、仰せのままに。
うぅ……なんでバレてるの……。
一向に右手を差し出そうとしない私に、南様は痺れを切らしたのか無理やり私の右腕を掴んだ。
「……バカ野郎が」
「……」
南様の手が掴んだ私の手。
そこには、赤く腫れている手首があった。
「なんで言わない」
「……ごめんなさい」
ようやくポケットから出した彼の手には、消毒液とガーゼが握られている。
「無理なことはするな、しっかり周りを見ろ」
「っ、」
南様にしては珍しい、真面目で強い口調。ーーでも、私の手首を手当てする手つきは妙に優しくて。
ーーそうだ、私、守りきれなかったんだ。
そばにいたのにも関わらず、彼がいなければ完全に危ない状況だった。
私は、仕事を全うできていない……できない人間。
彼の説教に己の弱さを思い知らされて、ジワリと目尻に熱いものが浮かぶ。
ダメ、泣いたら。泣いてもどうにもならないんだから。
泣くほど辛いなら、そうならないために自分が努力しなきゃなのに。
「俺を守るお前が死んだらどうする」
なんで、どうして……っ!
「でも、さっきはありがとうな」
どうして、そんなに優しくするの……っ?
堪えきれなくなった一粒の涙が、ぽろりと落ちた。
いつもいつも、私のことを見下してくるくせに。バカにして、笑ってくるくせに。
なんでこういう時だけ……。
思う存分罵って、責め立ててくれればいいのにっ。
「ごめんね……っ」
ずっと胸の奥に、喉の奥に引っかかって言えなかったことが、今になってするりと出てきて。
裏返った声。だけど、ちゃんと言えた。
「守れなかったことも……この前、何も知らないのに……無責任なこと、言っちゃったの」
「……」
彼は何も言わない。
ーー許されなくて、当然だってわかってる。
私が言ってしまった瞬間の彼の表情を見てから気づいたの。
彼に避けられてから気づいたの。
早く、謝らなきゃって。
「南様の気持ち……っ、わからないわけじゃないのに」
"ごめん"ーーそう再び謝る私を、南様は数秒間見つめた後、居心地が悪そうにガシガシと頭を掻いた。
「……まあ、俺もーー……」
そこまで言いかけたその時だった。
ザァァァァーー……ドカンッ!
一瞬光った空が、そんな音を立てたのはーー。
バチン!
それと共に、屋敷の電気が、すべて消えた。