ドSなあなたへ、仰せのままに。




「……停電か?」

「っ、」


南様は、突然消えた電気に特に驚くことなく、ベッドに座ったままあたりを見回した。


「そういえばもうすぐ台風来るとか言ってたっけな」


ーー辺りは真っ暗で、何も見えない。唯一、南様が照らしたスマホのライトだけが頼りで。

少ししかない頼りない光と。



ゴロゴローー……



空の唸る音が、あの時と重なった。



ドクン、ドクン、ドクン、ドクンーー

心拍が早まっていく。

怖い、怖い怖い。



頼りない街灯が照らす地面に広がる赤黒い液体。ゴロゴロと音を立てる漆黒の空。


そして、私のそばに横たわるのはーー



ーー絶命したお父さんとお母さんで。







「ちょっとブレーカー見てくるからジッとしてーー」


「はっ、はぁ……っ、ひゅっ、ぅ……」


「……沖瀬?」






浅くなる呼吸。

ーーあれ、呼吸ってどうやってするんだっけ。どうやったら息が楽になるんだっけ。


あぁもう、わかんない。何もかもわかんない。


空気を吸っているはずなのに、空気を吸っていないみたい。



「沖瀬」

「おとっ、さ……けほっ、はぁっ」



私のすぐそばに寄り添うのは、お父さん……?

無我夢中で縋りついた私の背中を、誰かが優しくさすってくれた。



「沖瀬、落ち着こう。な、大丈夫だから」



私の手は無意識に、彼の袖部分をぎゅうっ……と強く握る。

行かないで、誰もいなくならないで。今度は離さないから、死なないで。

ポロポロと涙を流しながら必死にしがみつく。



「いかないで……っ」



ブツンーー。


ぼやけていた視界も、頭の中も。全てがショートした。






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