ドSなあなたへ、仰せのままに。
「毎年11月2日はね、ここに来てるんだ」
そう言うと、私は手に持っていた紙袋の中から新たな榊を取り出して、専用の花瓶に備える。
そんな墓には、私の苗字ーー"沖瀬家之墓"という文字が刻み込まれていた。
秋を知らせるこの風が、いつも好きだった。秋を知らせる虫の鳴き声が、いつも好きだった。
そんな秋が、お父さんとお母さんの亡くなる季節になるなんて思っても見なかったけど。
「私が6歳の頃にね、お父さんとお母さんが通り魔殺人で死んじゃってね。それまでは、私だってフツウの子供だった」
お墓の前に座ると、それまでずっと無言だった南様も合わせて、私の隣にしゃがんだ。
「でもね、死んじゃってさ。そしたら、何も残らなくなっちゃって」
そこで、ふふっと笑みをこぼす。もっと暗い空気にさせてしまうと思ったから。
それに、笑わないと、私自身も何が何だかわからなくなっちゃいそうだったから。
「それでも、私のことを拾ってくれた人がいてね。人を守れるような強い人になりたいって言ったら、ここまで私のことを育ててくれちゃった」
秘密警察部隊ーーそれは、世界中での未解決事件や不審事件など、表舞台の警察が処理できなかったことの全てを引き受ける、政府非公認の組織。
あの時、施設から抜け出して私を拾ってくれたのは、その人たちで。
私を育ててくれたのも、その組織の水上社長だった。
"海は、ひとをまもりたいの!"
ーーあぁ、そう。
"だから海のこといれてよ!"
ーー覚悟はできてるの?
"もちろん!"
初めて私にもお仕事をちょうだいとねだった時、社長は首を横に振った。
無理だよ、と言った。
でも、とうしても何もせずにはいられなかった。私の両親を殺した犯人は逮捕されたけど、それでも心に何かが引っかかっている。それは今も、多分、これからもずっとーー。
それにあの時、私は心に固く誓ったから。
『私の身の回りにいる人は、絶対に死なせない』って。
「でね、初めて単独でもらえたお仕事が、これなの」
「……俺のボディガード」
「そうだよ」
ーー守れるよ、お前なら。
本部を離れる前、社長がくれた一言がずっと私のお守りになっている。
「だから!」
突然大声を上げた私に、隣にいた南様の肩がビクッと跳ねた。
「南様のことは、この私が命を賭してお守りいたします」
私は、まっすぐに南様を見つめた。
私が、絶対にーー。
私は、目の前のお墓に向かって手をゆっくりと合わせた。
ーーねぇ、お父さん、お母さん。私ね、頑張ってるよ。2人とも会えなくて、ちょっぴり寂しいけどね。お父さんやお母さんみたいに、誰も犠牲にならない世界を作るから。だから。
「見守っててね」
南様は、そんな私を静かに見つめていた。