ドSなあなたへ、仰せのままに。




時の流れは早いものだった。


「どーーーぞっ」

「さんきゅ」



ドンッ!と音を立てて、購買にて買ってきたコロッケパンと缶ジュースを机に置くけれど、そんな些細な抵抗なんて微塵も効いていないみたいで。

南様は機嫌良く、早速パンをかじっていた。




お父さんとお母さんの毎日から1ヶ月が経った12月初旬。またいつものように、4限目が終わった途端に購買まで急ぎ、南様の教室まで急ぎ……そんな日々を繰り返している。



「つか、朝の寝坊なんとかしろ」

「そっ……れはだって寒くて……起きられないんだもん……」



うぅ……寒さに耐えて布団から出れる方がおかしいよ!

モゴモゴと言い訳を口にする私を鼻で笑ってくる南様を軽く睨んで、ツンとそっぽを向いてやった。


あれから、南様との距離がグッと縮まったような気がする。

ーーだけど。



「つーか、お前今日のこと忘れてねえよな?」


「わかってるよ」



放課後の寄り道に付き合えばいいんでしょ、と付け足して頷くと、彼は満足げに笑いながら再びパンをかじった。

そう、以前よりも格段に私をやたらと何かに付き合わせたがるのだ。


今日だって、ベッドから引っ張り出されて開口一番には、『今日も俺に付き合え』なんて言っちゃって。


そんなのが何日もあるの、さすがに私のこと荷物持ちか何かだと勘違いしてるんじゃないの?


……まあ、仕方ないか。彼の行く場所全てにお供して、安全を守り切るのが私の使命なんだから!




「へえ、君があの航のボディガードっていう?」


「わっ!」



時間がもったいないからと、私も買ってきたパンを食べ始めようと口を開けた瞬間だった。


座っている私の後ろから肩に手を置いて、顔を覗き込んでくる"顔"が、視界ドアップに映されて、思わず短く声を上げてしまう。


え……顔……!?



「優樹、お前触んな」


「あはは、ごめんごめん」



パッと触れていた箇所を離されて、緊張していた体が緩まる。



「へぇー、航が1人の女の子とこんなに仲良くするなんて珍しいね。しかもただの使用人を」



朗らかな笑顔でそう言う『優樹』と呼ばれた彼の言い方からして、きっと南様と関係が親しい人なのだろう。

少し垂れ目な印象から見る雰囲気は優しそうだけど……。



「何が言いてーの」


「別に〜?」



なかなかに毒づいた言い方だったな……。

"ただの使用人"というワードに、トホホ……と肩を落としている私とは反対に、南様は少し怒っているような声色だった。



「ね、名前は?」


「へっ?」


私ですか……?と、おそるおそる自分のことを指さすと、優樹さんは頷いた。



「沖瀬海、です……」


「じゃあ海ちゃんだ」


「はあ……」


「お前なぁ……」



眉根を寄せた私に、優樹さんはニコリと笑って首を傾げた。

なんだかよくわからないけど、南様のお友達なら、別にいいのかな……?

うん、きっと大丈夫だよね。それに、まだ中学生なんだから。


私は、こちらをムスッとした表情で見つめる南様の様子に気づくことなく、優樹くんに笑顔を返した。





ーーーーーーーーーー



「お前、まじで優樹に必要以上に近づくんじゃねえ」

「えー、なんでよ。親友なんでしょ?」

「なんでもだ。これは命令だ、わかったな!」

「えぇ……」



放課後。少し不機嫌そうに唇を尖らせた南様は、さっきから優樹くんのことでガミガミとうるさい。

何がそんなに不満なのよ……。



「……ていうか、付き合ってほしかった場所ってここ?」


「は?別に行きたかった店が今日休みだったから仕方なくここに来たんだよ。いや、たまたまここしかなかったんだよ。お前みたいなうるせぇ女子が好きそうな店っつーの?」


「ふーん……」


「っとにかく!断じてお前の為の店じゃねえからな」



じぃっと見つめた南様の慌てふためく様子に、私は必死に笑ってしまいそうなのを堪えていた。



「……んだよ」


「別に?」



南様が連れてきたのは、フルーツタルト専門店。それは、この前の昼休み、南様の教室で女子たちがきゃっきゃと楽しそうに話題に上げていた場所だった。


「早速入ろ!南様!」


「ちょ、おま……っ」


いまだに私をここに連れてきた理由をゴニョゴニョと呟いている彼の腕を掴んで、私は笑顔を浮かべた。


ねえ、南様。私、知ってますよ。

昨日の昼休み、あなたが落としてしまったスマホの画面がチラリと見えてしまったんです。


ここの近くにあるケーキ屋さんやカフェーーどう考えても今時の女子高校生が行きたがるようなお店をたーっくさん調べた検索履歴がある画面がーー。





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