ドSなあなたへ、仰せのままに。
この気持ちはきっと。
1月ーー。
雪が降るその日。今日は、夜からあるパーティーが開催されるみたいだった。
そのパーティーというのは、世界的にも有名な財閥が主催している毎年恒例の交流パーティーで、有名企業の社長などのお偉いさんたちがたくさん集まるらしい。
そんなパーティーからはもちろんMINAMIグループにも招待状が届いていたーー。
「沖瀬」
「はいっ」
「……まじでその服で行くの?」
「え?そのつもりですが……」
ブラウンのスーツをカッチリと着こなした南様は、私の姿を見て呆れた表情をした。
これが私の唯一の仕事服なんだけど……。
上下ブラックのパンツスーツは、私が中学生の時に上司が揃えてくれたものだ。
たしか、チラリと値札を見て目が飛び出てしまいそうになった記憶が……。
って、そんな過去のことは置いておいて……。そんなに私の格好、おかしいかな……!?
「そんな格好で俺のそばにいたら、お前が浮くぞ」
「えぇ……」
そう言われても……私がここへ持ってきた服なんて、このスーツと学校の制服、寝巻きくらいなんだもん。
「ドレスくらい持ってねーの?」
きょとんとした顔の南様は、やはりお金に困らない御曹司だ。庶民と同格の私がドレスなんて、持ってるわけないでしょ……!
「持ってないもん……」
大体、私はボディガードとして行くんだから、別に問題なんて何もないのに……。
黙りこくってしまった私に、しばらくして彼は言った。
「買いに行くか」
「………………え?」
予想外の声に、私の口から出たのは、情けない声。
買いに行くって……ドレスを……!?
「宮下、車出せるか」
「もちろんでございます」
早速テキパキと指示を出していく南様が今何を言ったのか理解するのに、結構な時間がかかってしまったけど……。
えぇぇぇっ!?
ドレスって、あれだよね?安価なものもあるけれど、それでも0が4つつくのは当たり前の衣服のことだよね?
本当にこの人、どこまで御曹司なのよ!?
「行くぞ」
「へ……え、あ……は、はいっ」
待って、私の中の思考が全く現実に追いついていない。
パーティーが始まるまで、あと2時間もないよっ?
それなのに、どうしてそこまでして私のために!
あぁもう、考えるのはやめにしよう。ドレスにかかった費用は、後から本部に申請して連絡すればいいよね……?
「南様、ドレスなんて私には似合わなーー」
「うるせ、黙ってろ。俺が選ぶ」
「っ、」
南様が少し不機嫌そうな表情をして、私の言葉を遮った。
きっと南様だってそう思ってるはず。
ドレスなんて、今までの私の人生で一度だって着たことはない。
それに、こんな私がドレスを着るなんて、不釣り合いに決まってる。
ーーそれなのに。
彼の一言で簡単にそんな考えが押さえ込まれてしまうのは、なんでなんだろう。ドレスを私に選んでくれることが少しでも嬉しいと思ってしまったのは、なんでなんだろう。
服の上から、ギュッと胸の辺りを握った。
半ば無理やり押し込まれた車から見える外の景色が、なんだかいつもよりも明るく見えたのはきっと。
きっと、気のせい。