ドSなあなたへ、仰せのままに。
第一章
はじめまして。
「沖瀬海です!これからよろしくお願いします!」
「おいおい、なに、あの可愛い子」
「フリーかな?」
「俺ホームルーム終わったら話しかけてみよっかな」
清輝高等学校。
そこは、今日から私が編入し、通うことになる中高一貫校だった。生徒数が1000人を軽く超えてしまう私立で、様々な生徒や学科を兼ね備えるマンモス高。
そ、そりゃあ、あの御曹司も通ってるわけだよ……。
もともと、仕事の関係上で色々な高校を転々としてきたけれど、こんなに大きな学校は初めてだ。
私に割り当てられた1年5組の教室で、クラスメイトに向かって深々とお辞儀をすると、転校生が来るなんて知らされてなかったのだろうか、クラスメイト内でどよめきが起こった。
「じゃ、沖瀬さんはあそこの席ね」
「はいっ」
幾度となく転校してきた私だけと、やっぱりこの空気には慣れない。
転校生の私に対する好奇の目が絶えない転校初日は、なかなかに疲労感がたまるものだ。
10日くらい時間をすっ飛ばして、早く普通の空気にならないかなぁ……なんてことをぼんやりと考えながら、指定された席に行くまでに目が合ったクラスメイトたちに笑顔を返していく。
幸いなことに、私の席は1番後ろで。
これで少しはみんなの視線から解放される……。
ふぅ、と息を静かについて、椅子に腰掛けた。
☆ ☆ ☆
「海ちゃん、どこから来たの?ペンケース、ちょーかわいいじゃん!」
「え、センスいいね!かわい〜」
昼休み。
少ししかない休み時間にわざわざ話しかけてくる子はなかなかいない代わりに、長時間ある昼休みには、私の席の周りにたくさんの女子たちが群がっていた。
「私のペンケースこれ〜」
「いいよね、このキャラクター!」
中には男子もいるみたいだけど、こうした女子の会話に入ってきそうな気配はないみたいで。
私は、ふと目の前に見せられた女子のペンケースを見て、目を釘付けにされた。
「エメラルちゃん!好きなの!?」
ガタッ!と勢いよく音を立てて立ち上がった私に、一瞬みんなが驚いた様子を見せる。
そう、彼女が見せてくれたペンケースには、私が小さな頃から大好きだったマスコットキャラクター『エメラルちゃん』が小さく印刷されていた。
レインボーのウサギのマスコットキャラクター、それがエメラルちゃん。
そのキーホルダーが、今の私のペンケースにもついている。
私のキラキラした目に一瞬押された様子だった彼女は、一泊置いてすぐに頷いた。
「うん!好き!かわいいよね〜」
「えっ、ウチもエメラルちゃん好きだった!」
「海ちゃんも好きなんだ!?」
みんな、エメラルちゃんのこと知ってるんだ……!すぐに緩んでしまった口元が、みんなと自然に喋り出す。
まるで、昔から友達だったかのように。
あぁ、よかった。また、みんなと仲良くできた。