ドSなあなたへ、仰せのままに。
「南様……!
中高一貫校だとはいえ、高等部の校舎から中等部の校舎までの移動は、やっぱり数分はかかってしまうもので。
ガラガラ!と勢いよく教室のドアを開けて名前を呼ぶと、中にいたクラスメイトが一斉に私を向いた。
南様は……!?
「へー、マジで来るんだ」
焦って教室を見回す私の視界で、そんな言葉と共にひらひらと私に向けて振られた手。
見ればそこには、缶を片手に笑みを浮かべた張本人が椅子に座って脚を組んでいた。
え……あれ……?
目を凝らしてみても、特に異変なんてものはない。むしろ、普通……。
緊急事態じゃ、ないの……?
「はい、これ」
「……え?」
目の前に来た南様は、私の手のひらに、500円玉を落とす。
ポカンとしている私をバカにするように笑った後、言った。
「パン、買ってこい」
とーー。
「はあーーー!?」
ざわめいた教室に、そんな私の叫び声が響いた。
☆ ☆ ☆
「私はアンタの犬じゃないんですけど!」
バンッ!という机を叩く音と共に、私は南様に向かって購買で買ってきた焼きそばパンを投げつけた。
「でも買ってきてくれんだ?」
「うるっさい!」
ヘラヘラと笑う彼を、ぴしゃりと黙らせる。
コイツ、なんて生意気なの……!わなわなと震える拳を、そのまま彼の顔に打ち込んでやりたい。
「大体ね、私のことをなんだとーー」
「うるせーな」
ギャアギャアと騒ぐ私に痺れを切らした南様は、静かにため息をつくと、私の後頭部に手を回して、グッと顔を寄せた。
思いもよらない突然の至近距離に、私の肩が跳ね上がる。そして、教室にいた女子たちが小さく悲鳴を上げた。
「ちょっと、教室でなにやってーー」
「お前に投げられたの、まだ許してねーから」
ドアップに映し出された彼の悪い笑みが、私の喉を詰まらせる。
こう言われては、私だって何も言えなくなる。
ーーボディガードを脅すなんてズルすぎる、なによ、コイツ……!
後頭部に回された手を乱暴に払い除け、目の前で勝ち誇ったような表情をしている彼をキッと睨みつけた。
「返事はワンだろ、バーカ」
「っ……!」
これから始まる私の学校生活、どうやら大変なことになりそうです……。