ドSなあなたへ、仰せのままに。
私がボディガードとして、ある人のそばに仕えてから1週間が過ぎた。
「あーあ、雨とかだりぃー」
窓の前に立って外を眺めながら、どこか面倒くさそうにあくびをする彼ーー南航は、私にとっての守るべき対象であり、MINAMIグループの御曹司。
そんな彼と、1週間過ごしてわかったことがいくつかある。
「沖瀬」
「……はい」
「俺の服洗濯しといて、あと今日の分の服も出しとけ」
「は!?それくらい自分でーー……ぶっ」
バサッと勢いよく投げられた彼のスウェット……いや、パジャマは、見事私の顔にヒット。
そんな私のことを気に留める様子なんてなく、彼は私に淡々と雑用の命令だけをして、上裸でへやを出て行った。
「私の方が歳上なんですけど……」
あの男……私が出会い頭に背負い投げしてしまった失態をいいことに、私を毎日こき使って……!
そう、彼についてわかったことの1つ。
それは、南航はとんでもなく横暴であるということ。しかも、私にだけ。
さっきのように、毎日毎日、5歳児でもできるような雑用をわざわざ私を呼び出してやらせる。
時々、ふと『あれ、私ってボディガードだよね……?』なんてことを思い出すくらいに、私の存在意義がわからなくなることも。
まあ、それに逆らえない私も私なんだけど……って、いやいや。私、こんなことする必要あるの……!?
この家にいるメイドさんや執事さんに頼めばいいじゃない、大体、ボディガードである私にどうして……。
私は、彼のパジャマを畳み掛けていた手を慌てて引っ込める。
そうだ、一度くらいガツンと言ってやらないと。私の方が歳上なんだぞって。私はお世話係じゃないんだぞって。
よし、と立ち上がった時、タオルを肩に掛けた彼が再び部屋に戻ってきた。
しかも、髪が濡れた上裸の状態で。
「ちょ……っと!」
雑用を押し付けないで!と、そんなことを言う前に、私もひとりの女子なわけで。
男の人の上裸なんて見たことのない私には、刺激が強すぎる光景だった。
「あ?服出しとけって言っただろ。なんでやってねーの」
そんな彼のイライラした声が私に向けられる。顔を覆っていた手の指の間から彼の表情を覗き見ると、ヤツはただ顔を覆っている私のことを怪訝そうに見ていた。
「今日は女とデートだから」
「へっ……」
「さっさと準備しろ」
またか……。と言いたくなるのを喉の奥にとどめて、ため息をつく。
南航についてわかったこと、ふたつめ。
それは、彼がこれでもかというくらい女遊びが激しいということ。
毎日パシられる学校の昼休みでも、南さんの周りには必ずと言っていいほど、たくさんの女の子がいる。
無言で買ってきたパンを置いていく私の耳には、いつも『航〜、次の休みいつ〜?』なんて、デートのお誘いの声が聞こえてくるくらいだ。
彼はきっと、私がくる前から女の子の相手で忙しいのだろう。
だからってこんな雑用ばっかり……。
「ねえ」
とうとう痺れを切らした私は、クローゼットから適当に服を選んで袖を通している彼にそう強く声をかけていた。
「……なに」
俺今忙しーんですけど、と呟きながら私のことを見向きもしない彼に向かって、床に落ちているパジャマを力いっぱい投げつけてやった。
「って、お前なー、まじで何ーー……」
「自分でそんくらいやりなさいよ!このガキ!」
「はぁ……!?」
突然大声をあげてキレ散らかす私に、驚いたように目を丸くする南様。
そんな彼は、私がこんなにも怒っている理由なんて、みじんもわかっていないみたいだった。
「服を畳むのも、パンを買うのも、5歳児でもできるじゃん!私はアンタの犬じゃないって言ってるでしょ!」
そこまで捲し立てるように言ってから、一度言葉を止める。
肩で息をする私を見て、目の前に突っ立っている彼は、一瞬きょとんとした表情をしたけれど、すぐに笑みを浮かべながら首を傾げた。
「別にやんなくていーけど。アンタの仕事、なくなるんじゃね?」
「……え?」
眉間に皺を寄せた私を見て「わかってねーな」とでも言うかのように、南さんはベッドにボスンと座った。
「……大体さ、なんでボディガードとしてウチに来たわけ?沖瀬海」