ドSなあなたへ、仰せのままに。
彼が私の名前を呼ぶ。
あぁ、やっぱり。
「ーー知らないんだ」
「はあ?」
意味不明、とでも言うように、彼はは眉間に皺を寄せた。
私が南航という人物のボディガードとならなければいけない理由、それは、ここへ来てから知った。
最初こそ言われるがままに来たものの、後から自分で情報収集したり、上司に問い詰めたりすると、それはすぐにわかった。
「黙ってねーでなんかあんなら言えよ」
「……」
「おい」
黙りこくった私に痺れを切らしたように、彼が立ち上がって私の前にしゃがみ込んだ。
"ーー航には、タイミングがあれば伝えておいてくれ"
そんな言葉が脳裏をよぎる。
"ですがお父様、この件に関しては自らお伝えした方がーー"
"構わん、私は忙しい"
"……承知しました"
数週間前に、この仕事の依頼人と交わしたたった10秒にも満たない会話。
その中で、私はハッキリと確信した。
ーー彼のことは、私しか守れない。と。
今、言うべきなのかな。
「沖瀬」
彼の苛立った声が私の名前を呼ぶ。今度は、強く。
きっといつかは言わなければいけないことなんだから、言おう。
スゥ、と決意を固め、息を吸ったその時だった。
「ーー何をしている」
背後から、背筋の伸びるような、そんな声がしたのは。